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契約 6

 「こっちが赤、でコイツが黒」  翌朝、僕はこの家にコイツ以外に住んでるモンをご紹介いただいた。  赤いのは猿みたいやった。  黒いのはウサギみたいやった。  どちらも僕の膝まで位の背丈で、毛むくじゃらで、丸あるい瞳をしていた。  二足歩行して、なんかペチャクチャ甲高い声で話してなければ・・・なんかの動物かと思ったかもしれへん。  アイツの周りをなんか早送り動画みたいにふざけながらクルクル回ってた。  「で、もう一人、オレの影にすんでる白。これがオレと契約しているやつらや」  アイツは仕方ないな、と云うように紹介してくれた。  「たあな!!」  「はわなかたわ!!」  キャラキャラと赤と黒が僕を見て何かいった。  赤いのは僕が白をどつこうとしてへこませた畳を見て、それからまた僕を見て、すごく嫌そうな顔をしてさらに何か言った。  「はらは!!」  赤いの言葉何か毒づいたのはわかった。  アイツはため息をついた。  「はらさ・・・」  赤いのに言い聞かせるようにアイツもなんかチャラチャラ言うた。  赤いのは嫌そうな顔をして、僕をみて・・・でもなんか納得したみたいやった。  「・・・何、お前言葉わかんの?」  僕は驚く。  「当たり前や!!契約しとるんや、言葉ができんでどうやって契約するんや。お前まさか漫画みたいに魔法陣とか呪文で言うこときかせとる思てるんちゃうやろな。ちゃんと意志疎通をするべく何代にも渡りコイツらの言語を学び、取引をするにい たったオレらの努力をそんな書いたらしまい、唱えたらしまいな簡単なモンと一緒にすな!!」  まだ寝込んでいたくせに、こういう時はアイツは元気になる。    そうなの。   ちゃんとお話し合いで取引するもんなの。  へぇ・・・って待て!!  「契約て・・・契約て・・・まさかコイツらにも飲ませとるんか!!」   僕はキレた。      ちょっと、「わぁ、可愛い、スターウォーズのイウォークみたいや」、とか喜んでいた生き物達は、今、僕の殺意の対象になった。  湧き上がる殺意に、赤と黒はアイツの背後に隠れた。  許さん。  可愛くても許さん。  殺す。  お前らも飲んだんか。  殺す。  殺す。  殺す。  殺意は溢れ出す。    赤と黒がアイツの背後で悲鳴をあげた。  「アホ、アレは白だけや!!コイツらはじいさんが契約というか、基本的にはちょっとした家事手伝いしてもらって、代わりに食事とか果物とかお菓子とか、この家に住む許可を与えてるだけや。まあ、言うたら居候やで。僕とも契約してるけどな」  アイツは笑った。  「・・・そう」  僕は殺意を消した。  なんかホッとした。   コイツがこの寂しい家で一人やなかったということに。  白、白だけは許さんけどな。  アレはいずれ殺す。    「白はじいさんが契約したんや。自分は家におらんし、兄貴もめったに顔出さへんから。白かて、オレに危険のあった時と、アカンヤツを喰う時だけやで、その、オレの・・・やらないとあかんのは」  アイツが僕を宥めるように言った。  いや、アイツだけは許さん。    コイツの影に住んでるんも許せん。  「アイツもしゃべるんか。で、コイツらは何なんや」  僕は不思議に思って聞く。  まあ答えはわかってる。  「オレにもわからん」  アイツの言葉は予想がついた。  「仮説でええで」  僕はどう聞けばいいのかわかってきた。  はっきりした事実が解明できるまでは「わかった」ことにはコイツにはならないんやろう。  「白は喋らない。口がないからな。でも意思表示はするし、じいさんとは何かしらで意志疎通をしている。コイツらはコイツらなりの文化もあるし、知性もある。でも、あまりにも人間とは感覚や価値観が違うから・・・理解は難しいな、言語も価値観を反映するからどうしても、理解出来ない部分も多々あるし」  アイツは言った。  じいさんイカレてる。  孫のガードに精液飲みたがる変態つけたんかい。  「オレらは特殊な家系でな、オレらの体液はコイツらには価値があるんや」  アイツが諭すように言った。  ええわかってますよ、あの行為には性的な意味などない。  それでもむかつくんや。  「オレらの世界とな、アイツらの世界はな、重なってんねん。アイツらはおると同時におらんのや。アイツらはアイツらの文化を営み、建物や国やらつくったりもしてる。でも、それはオレの世界と時折重なるけど別の世界なんや。高層ビルの谷間が、アイツらの城やったり、汚れた海が、美しい海中都市やったりな・・・でも時折重なるんや」  アイツの説明はわかるようなわからんような。  でも解ったこともある。  「重なったのが狭間、か」  僕はアイツが言ってたことを思い出した。  「そうや、完全にではないけど、不安定に重なった時そこが狭間になる。この世界に無いはずのモンが現れる」  アイツは頷いた。  僕はアイツの影から僕を嫌な顔して睨む、赤と黒を眺めた。  赤いのは金色の目をしていたし黒いのはガラスのように透明な青い目をしていた。  「この家も狭間?」  僕は聞く。  おらんはずのもんがおる。  

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