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悪意7

 今度の餌場は街の中にある公園だ。  ピンクのネオンに取り囲まれて、赤い鳥居がある。  この欲望と罪の街の隣りに神社があることを少年は面白く思っていた。  繁華街に隣り合わせで存在するのは寺町と呼ばれるお寺や神社ばかりの町と、繁華街が嘘のようなのんびりした住宅地なのだ。  聖と罪はとなりあわせに存在するのだろう。    少年はそんなことを思った自分を笑う。    どうだっていいと思っていたから。    どうだっていい。  でも死にたくない。    そしてこの苦しさから逃れるためならなんでもする。  それだけ。  少年は思った。     その公園は神社の中にあった。  さすがの夜明け前、こんなところでも人はいない。  神社の中の公園のためか、隣が寺の墓場のためか本来なら酔っ払いやホームレスか寝転がっていそうなのに、ここはいつも誰もいない。  始発が始まる時刻には夜の仕事を終えた人達がここを通って駅に来るのだろうけど。    少年の家は駅前の高層マンションだった。  ここまでは5分くらいでこれるのでちょうどいい。  ここは良い狩場だった。  ただ、繁華街に住む猫達は食料に苦労はしていないからこそ、人間に大して用心深かった。  だから、ひと月かかる。  触らせるまでになるまで。  少年は持ってきた餌入れ代わりのクッキーの缶にキャットフードを入れて猫達を待つ。  これは親切めかして猫達に餌をやっている猫好きババアから学んだ。  餌を与える時間を決めれば、そこ頃に猫達はやってくる。  そこで、上手く猫を扱う。  人に慣れてて、触らせてくれる猫がくればそれが一番いい。  そうでなければ、触らせてくれるようになるまで、優しく声をかけ、餌を与え続けるのだ。  触らせてくれるようになったら・・・そういうことだ。  またたびなどをつかうこともある。  人間も猫も変わらない。  ひと月ほど好ましいモノでありさえすれば、すり寄ってくるのだ。    キャットフードが入ったクッキーの缶を叩けば、猫達がやってくる。  「なぁ」   「なーご」  媚びる声がまるであの女のよう。  この中で一番殺しやすいヤツを殺す。  優しい笑顔を浮かべ、猫達に話しかけながら少年は猫達を物色していた。  少年は高層マンションの我が家に戻る。  そこはかなりの年収がないと購入できないマンションであることは少年も知っていた。  父親は大きいとは云えないまでも、会社を経営し、こんな世の中でもそれなりに儲けているようだった。  めったに家に帰ってはこない。  仕事だか。  遊びだか。  女だか。    いない方がいい。  いても、思いついたように話しかけられても上手く答えられない。  父親には何の感情もなかった。  自分が生まれた原因以外の価値を見つけることもできなかった。    どうでもいい。  少年は思った。  猫のことを考えたなら股間が疼いた。  まだだ。    まだ。  エレベーターの中で自分を宥める。  ペースを守れ。  手順を踏み忘れるな。    餌は3日に一度。  殺しは月に一度。  このペースが一番好ましい。  部屋に戻って汚れた下着を取り替えよう。  猫達を見て想像しているだけでイってしまったのだ。  部屋でもう少しだけ・・・想像でしてもいい。  少年はそう思った。   早く部屋に帰りたかった。  玄関を開けたらそこにあの女が立っていた。  珍しい。  少年がどこで何をしていても、どうでもいいくせに。  少年は俯き女と目を合わせないようにして女の側を通り過ぎる。  女はパジャマなど着ない。  白いタップリとしたネグリジェにナイトガウンを羽織っている。  年を経て、豊かさを増した身体をの線はそれでも、柔らかなその肉を思わせる。  化粧をしていない顔は、それでもどこか誘うような色香を漂わせる。  女は今でも美しい。  吐き気を催すほどに。  「・・・また猫に餌?」  女は気だるい声で言った。  「うん」   3ヶ月ぶりに話しかけられた。  もう俺が見えなくなっているかとおもったのに。    少年は思う。  「・・・・・・猫ぐらいしかあんたを構ってくれへんのやろね」  女の声はやはり皮肉がまじる。  少年は答えない。  女をまともに相手はしてはいけない。  この女に関わってはいけない。  黙って部屋へ向かおうとした。  「・・・・・どうでもいいけど、絶対に誰かに見つからんようするんやね」  その声に少年はヒヤリとする。    女は気付いたのか、少年が猫で楽しんでいることを。  そんなバカな。  女は少年にそこまでの関心はないはずだ。  

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