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悪意 9

 少年はふと思った。  茹で猫を作った時のことだ。  アイツは何だったんだろ。  獣みたいな・・・同じくらいの年頃のアイツ。  四つん這いになって、襲いかかってきた。  まるで猛獣のようだった。  あの裏山の石段で、アイツは少年を石段の遥か下の暗闇へと躊躇なく放り投げたのだ。    自分の身体が闇に沈んでいったのを覚えている。  殺す気だった。  少年にはわかる。  何の迷いさえなく、アイツは少年を殺しに来たのだ。  黄色がかった獣じみたあの獣の目は何の曇りもなく少年を見つめていた。  美しいとさえ少年は思った。  あれは誰なんや?  そして何故・・・わかったんや?  少年がしたことを知っていた。  投げとばされた後を覚えていない。  きっと上手く転がって・・・なんとか逃げられたのだろう。  自分があんな獣から逃げられるとはとても思えないのだけど。  美しい獣。  全てを引き裂く。  何にも従わない。  誰にも従わない。  お情けで存在させてもらうことのない。  強い獣。  少年はまた自分が握り込んでいることに気づく。  猫のこと以外でこうなるのは珍しい。     美しい獣。  あの身体はきっと張りつめていて美しいのだろう。  あの牙で獲物を貪るのだろうか。    自分を狙っている?  ゾクゾクした。  夢中で擦り立てた。  獣の腕が投げるために自分にまわした腕の感覚を思い出した。  あの腕の中喉を食い破られる・・・・・・。    「あっ・・・」  声が漏れる。  猫の手足をハサミで切る時と同じくらいの快感が走った。    驚きだった。  快感は脳からくることを少年は知っていた。  そのイメージは身体を貫いた。  あの獣を縛りその指を切ることを考えてみた。    「うっ、はぁっ・・・」  それだけで射精していた。    スゴイ。  スゴイ。  あの獣。  欲しい欲しい。    初めて少年は思った。  誰かが欲しいと。  あの誇り高い誰にも跪くことのない獣が欲しい・・・。  猫達よりきっと・・・いい。  少年は微笑んだ。  それは初めて欲しいものを知った少年の微笑みだった。  微笑む少年は気づいていなかった。  机に頬をつけてうっとりとした微笑みを浮かべているその時に、少年の着ているトレーナーの下の背中で何かが蠢いているのを。     少年の背中はポコポコと蠢いていた  まるで着ているトレーナーの下に何か生き物がいるかのように。  少年は気づかない。    少年は夢見るような表情でまた扱きはじめていた。  少年の背中で何かはボコボコと蠢いていた。  それは首の近くから、ゆっくりと腰のあたりへと降りていく。  「あっ・・・はあっ・・・」  少年は喘いでいた何も気づかないように。  少年のトレーナーがまくりあげられた。  そのトレーナーをまくりあげた手は、トレーナーの内側から伸びていた。  トレーナーをまくりあげたモノは、手のひら程度のクシャクシャな小さな顔をトレーナーからのぞかせた。  ソイツが大きくトレーナーをまくりあげたから、ソイツが少年の背中から生えていることはよく分かった。  干からびた、クシャクシャの握り拳みたいな顔の小人の上半身が少年の世界から生えていた。   蝉の背中を食い破って伸びてくる植物のように。  生えていると言うよりは・・・まるで、少年の身体に潜っていて、そこから身体をちょっと出したみたいな様子だった。  そう、伸びをすれば身体の少年の中に隠れている部分がさらに露わになる。  だが、延び終わるとまた身体は沈み首から上だけが、部屋の中を珍しそうに眺めた。  膿んだように光る黒い瞳と、干からびた顔が対照的だった。  少年は夢中で快感を貪っていた。  少年は誇り高い獣のことを考えていた。    美しい獣。    強い獣。  誰にも従わない・・・。  決して誰にも跪いたりしない・・・。  それは少年にとってだけは甘い夢。  背中のモノは口を開いた。  干からびた口を開いた。  「おぎゅら、おぎゅら」   それははっきりと声をあげた。  でもそれを少年は聞くことはない。  「あっ・・・はあっ・・・」   少年の指は迷ったように、後ろの穴に伸びていた。  何度か躊躇った後、そこに指は伸ばされた。  「おきゅらぽす、でかよやさ」  干からびたモノはまた言った。  少年は聞こえるはずのそれに気づかず、指をそこに沈めていった。  「ああっ・・・」    少年は身体をふるわせた。  ソレはゆっくりと少年の中に沈み、まるでそんなものはなかったかのような少年の背中だけがそこにあった。    少年は震えながら自分の乳首にも指を伸ばしていた。     あの獣。  あの獣。  あの獣が欲しい。    自分の乳首を摘み、穴をかき混ぜながら少年は呻いた。    欲しい欲しい欲しい。  欲しい欲しい欲しい。  声を出さないように唇を噛み締めた。  この家の壁は厚い。  あの女が男を連れこんで派手にやっててもそんなに聞こえないほどた。  でも駄目。  俺はこの家で物音を立てることはゆるされてないんや。    少年は声を殺しながら思った。  手足を削ぎ落としながら、獣と繋がることを。  もしくは削ぎ落とされながら獣と繋がることを。  触れてもないのに出た・・・。  「・・・・・・欲しい」  少年は決めた。  あの獣を手に入れる。  あの仕方なく生きなくてもいい獣を手に入れる。  誰にも従わない獣を手に入れる。  何故かまた会える気がした。  それに・・・・・・何故か何とかなるような気がした。  何にも自信などもったことなどなかったのに。  何とかなる。  俺はやれる。  猫を最初に殺すことを決めた日のようなドキドキ感が溢れ出す。  少年は初めて、「どうでもいい」と思わない自分に気付いた。  「待ってるで・・・早よ、俺に会いに来て・・・」  少年は夢見るように呟いた。  まだめくられたままだった背中から、一瞬アレが姿を表した。   クシャクシャな顔だけが水面に顔を出しているように、少年の身体から浮かび上がる。  「おきゅらぽす」  ソレはまた言うと、また少年の身体の中に潜って行った。

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