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悪意 13

 「悪意喰いはその名の通り、人の悪意を食べる。正確には悪意を発することによって引き起こされる身体の中でおこる何かを自分のエネルギーに変えていると思われる。・・・いつもの通り、全て仮定の話やけどな。まぁ、本人達の話ではそうやからそうなんやろ」  アイツは言葉を切った。  「話、したん?」  てか話せるん、この寄生生物。  「オレのご先祖様がな。オレ達は彼らと話し合うことやコミュニケーションをとることにやって情報を得ることを中心にやってきたんや。後は観察、調査や」  アイツが言う。  でも、お前、コミュニケーションなんか僕とですら危ういのに・・・でも、赤と黒とは仲良くやってんな・・・人間用のコミュニケーションの手段を知らんのかもしれん。  「何かあったら化け物妖怪悪霊のせい、漫画の程度の低い馬鹿どもとオレらを一緒にすんな。オレらはヤツらと会話しようとし、その発する言葉からその言語を解析し、コミュニケーションをとりながら研究を続けてきたんや!!退治したら終わりのあんな楽しとるヤツらと一緒にすんな!!」  僕は大人しく聞く。    こういう時は黙って聞く。  それに好きな人が好きなことについて喋ってんのって・・・素敵やん。  「悪意喰いは昔から色町が好きでな、お前の町の風俗地帯は昔から非合法の色町やった。昔からそこに住んでる。悪意を常に発している人間を見つけやすいらしい。基本的にただ身体の中におるだけや。それ自体は何の害意もない。ただな、そこは寄生生物や・・・」  アイツは言葉を切った。  「寄生と言うより共生になるんかもしれん。悪意を常に発する人間は寿命も短くなりやすい。殺し殺され、捕まり処刑され、恨まれ殺され。それじゃ、大事な宿主がいなくなる。それは悪意喰いには困るんや。・・・そやから、宿主の危機にはちょっとばかし力を貸す」  アイツは難しい顔をした。  「一時的に身体の性能をあげてやるんや」    アイツの言葉に思い出す。  僕に石段から投げられても、ふわりと降り立った身体。  疾走するトラックに飛び乗った身体。  「・・・でも、ほんなら悪意喰い、結果的に悪事に加担してるんやないの?」  僕は正直に言う。    猫殺しが捕まらないように助けると云うことは、猫殺しが殺し続けるのを助けると言うわけで・・・。  「悪意喰い自体はそこまでの思いはないんや。アイツらはただ餌であり住処である宿主を守っているだけなんや」  アイツは必死で悪意喰いを庇う。    赤と黒に対する態度とか見てても思うけど、コイツ多分、人間より化け物達に親しみを感じている。   赤と黒を家族のように接し、  天井裏を覗き込み、そこにいるやつらに声をかけ、床下の奴らにもたまにおやつを皿に乗せて出してやる。  どんな奴らがおるんか知らんけど・・・僕は見たくはない。  学校では人間相手に嫌みしか言わへん、愛想一つみせへんアイツが、化け物達には笑う。  コイツは人間よりも遥かに化け物が好きや。  僕以外は。  そう僕のことはとっても大好きやからそれだけでいいんやけど。  「悪意喰いかて、生きたいだけなんや。悪意喰い達かて・・・悪意があるから喰ってるだけや・・・生きたいだけや。責めたらあかん・・・責めたらあかんねん・・・」  アイツかなんか凹みだした。  どないしたんや。  「元々悪意喰いは人間ではなく、熊とか狼とかの肉食獣などに寄生してたんや。獲物を狙い殺す時の殺意を食べていたんや。人間のせいでおらんなったから、しゃあなしに人間を寄生先に選んだたけなんや・・・・・・悪意をだしとるんは、殺してんのは人間や・・・」  アイツはなんか必死やった。  悪意喰いのために必死やった。  なんか、切なくなってきた。  コイツ、悪意喰いだけのために言うてるんやない。    何なのかわからんけどそれはわかった。  「うん。わかった。悪意喰いは悪ない」    僕は納得した。  コイツが言うならそれでいい。  「悪意喰いは悪ないけど、宿主は悪い。どうやって捕まえる?捕まえた後どうする?どうやって探すんや?」  僕はアイツに従うだけだ。    「お前が知らへん。それがソイツの探し方の答えや」  アイツは言った。  どういう意味?      

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