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獣 6

 日曜日のバイトが終わった。  「駅で下ろしてもらえます?・・・待ち合わせしとるから」  僕は社員さんに頼む。  いつも家まで送ってくれる優しい社員さんや。  僕は週末だけ清掃のバイトをしている。  引っ越し後の掃除とか、ビルのメンテナンスとかだ。  結構力仕事なので重宝がられてる。  キツイ仕事なので、時給もいい。  卒業したらしばらくここのお世話になろうかと思ってる。  別にしたいこともないしな。  兄貴の怪しい仕事を手伝おうかと思ってたけど、兄貴の師匠はドケチなのも知っているし、僕は別にあの人を兄貴みたいに信奉しているわけやないし。  凄い人なんはようわかるけどな。   「また恋人とこか?・・・まだ卒業してへんねんから大概にしときや?」  社員さんが笑う。  ずっと暇さえあれば「可愛いです」と惚気つづけているので。  写真見せろと言われてるけど、僕が持っている写真はとてもやないけど人には見せれん可愛いとこを、撮っているので見せられるはずない。  ぶっちゃけハメ撮りやし。  それを言うとなぜかうらやましがられた。  ハメ撮り以外の写真かあってもなぁ・・・  ハメ撮りでも何でもさせてくれるアイツが、普通の写真でも人に見せたら激怒するのはわかってるし。  その理由が、僕とアイツが付き合ってるのを知られたくないってのがなぁ・・・納得いかんねんなぁ。  「オ、オレは別にお前がしたいなら・・・人前でしても・・・」  あの後必死の決意でアイツは言っていて、あんなに声聞かれるだけで嫌がってたくせに・・・ホンマに僕のためなら何でもしようと真面目に「変態にならなあかん」と・・・なんでそうなんの。  いや、僕が悪い僕が悪い。  ホンマ僕が悪い。  何でもさせてくれるけど、付き合っていることだけは隠したい。  その理由がな、まだアイツが嫌ってのならええねん。  ちゃうねん。  僕のために良くないって思いこんでんのがなぁ。  僕か笑われるとか。  僕と釣り合わへんとか。  なんかなんかなぁ。    でもこれだけ好き勝手してるから、これ以上無理やり公表することもできんしなぁ。  僕はため息をつく。  「可愛い恋人に会うのになんでため息やねん」  社員さんか笑った。  「めっちゃ愛してんのに伝わらへんから辛いんですよ」  僕は本気で言う。  「・・・自分、マジでスゴイな。そこまで惚れこんでみたいわ」  社員さんは呆れたように言った。  駅前に車を止めてもらった。  「たまには家に帰りや・・・まだ高校生やねんから」  社員さんに言われて頷く。    着替えも持ち込み、洗濯もアイツの家でしてる。  居候なので、料理以外は掃除も洗濯もしてる。  ・・・僕はアイツのパンツも洗ってんねんけど・・・ていうより、シーツも下着も汚させてんの僕やしな。  最初は嫌がってたけどアイツは洗濯と掃除はとうとう諦めた。  「デリカシーってのががあるんや!!」  て僕が洗おうと持っていこうとしたパンツ掴んで泣いてたけど、何を今さらパンツくらいで。  脱がせたんも、下着の上からぐちゃぐちゃにしたんも僕やのに。  大体泣いたら僕は喜ぶことをまだまだわかってへん。  大体、身体から後ろの穴まで綺麗にしたってんのは僕やのに何をパンツくらいでガタガタと。  まあ、ちょっとその汚れた下着使って苛めたりとかはしたけど・・・。    「こんなにぐちゃぐちゃに汚してるんか」とか言うたりして・・・。  まあ、泣かせたけどな。  まあ、普通やん?  コレくらい。  今では大人しく諦めて、僕に洗濯させている。  ほとんど一緒に暮らしているようなもんやけど・・・。  ・・・こういうなんとなくやなくて、もうちょいちゃんと一緒に暮らしたい。  ちゃんと親にもいうて、ちゃんとアイツのじいさんやら兄さんやらにも挨拶して・・・ちゃんとちゃんと。  ウチの親は反対せぇへん。  犯罪者にならんかったらもうええ、くらいにハードルは下がってる。  日頃の行いの成果やな。  兄貴が限りなく黒に近いギリギリ合法な仕事をしていることに比べたら、たとえ同性だろうが堅気で真面目なアイツと付き合ってることくらい全然オッケイやろ。  兄貴の仕事手伝う言う方が気か狂うやろ。    問題はアイツの家族や。  反対するかせぇへんかより・・・どんな人たちなんかも一切知らんし。  「はい・・・ちゃんとします。適等に付き合ってるんやないんやから・・・」  僕が頷いた時だった。  僕が座っていた助手席側の窓ガラスが物凄い音を立てて割れた。    

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