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獣 14

 「いつかは死ぬし、死んだら燃やされるだけの身体や。死んどるんやから自分がどえなってんのかももうわからんけやし、コイツらに喰わせてやって何があかんねん」    アイツは事も無げに言った。  ええ!?    そんなもんなんか?  「大体火葬場の骨かて全部持って帰るわけやないんやで?」  アイツの言葉にさらに驚く。    「骨壺に入る分以外はまとめで処理されてるで。とうせ、骨つぼも墓に放り込むだけや。そんなもんや。なら、赤と黒の栄養になった方が嬉しいやないか」  アイツは愛おしげに赤と黒を抱きしめる。  きゃらきゃら言って赤と黒もアイツに抱きついている。  その笑う顔の犬歯の鋭さに今日は目がいってしまう。  肉食どころか人肉まで。  「それに・・・この契約は大サービスやねんで?コイツら僕のこと好きやからそれでええ、いうてくれてんで。下手したらあと僕が死ぬん60年位後になって、今のコイツらがオレを食べることなんてないかもしれんのに、かまへん、て。オレが死んでからでええて、自分らが次の次、位の身体になってからでもええて・・・なんてええ奴らや・・・」  なんかアイツが感動してるんですけど。  化け物との友情に震えてるんですけど。  僕、お前らの感覚全くわからないんですけど。  僕は流石に言葉を失っていた。    でも、でも。  「アカン。喰わせるなんてアカン!!」   僕は大声をあげそうになるのをこらえて言う。  「何でや。そん時にはもうオレ死んでるんやし、ただの中身のない亡骸やろが。大体一回の食事のためにオレが死ぬまで手伝ってくれんねんで?めちゃくちゃ損な契約を結んでくれとんねん。オレのために」  アイツが眉をひそめる  「嫌や!!お前が食われるなんて嫌や!!」  僕はここは譲れへん。  あり得へん。  お前の身体は僕のやろが。    死んだら赤と黒のもんになるやと?  あり得へん!!  「お前が死んだら僕が喰う!!」   僕は言った。  キシャア  キシャア  赤と黒が獲物を奪いに来た敵だと僕を認識し、凄まじい顔で歯を剥き出してきた。     怖っ!!  でもひかへん。  コイツは僕が喰う!!  死んでも僕のもんや!!  僕も赤と黒に歯をむき出す。  引き下がらへんて!!  「やめや」   僕と赤と黒にアイツが呆れたように言った。  「お前やったら僕かて生でも喰える!!」  僕は言い切った。    むしろ喰いたい。  化け物なんぞになんで喰わせなあかんのや!!  「お前がオレを食べるのは不可能や」  アイツが淡々と言うた。  なんでや!!  喰える。  全然喰えるわ!!  調味料もいらんわ!!  睨みつけた僕をみてアイツは淡く笑った。    「まあ、お前はオレとセックスしたいだけやなくて【友情】・・・感じてくれとんねんな、と思ってもええんやろ・・・な、うん」  アイツが僕を窺いながら言う。  【友情】やと?  いや、それでもええわ。  【性奴隷】やと思ってるよりかは少しマシになった。  まあ、ええ。    「そやから、ずっと付き合いしてくれるつもりなんやろ・・・お前にパートナーが出来て、まぁ、セックスせんなったとしても。それは嬉しい。本当に嬉しい」  アイツが嬉しそうに言うてんのが、犯したくなるくらい腹が立つけど我慢や。  ちょっと前まで、いらんなったらポイされる思われてたからな。  まあ、ええ。    もはや、そう思える域に達してる。  ちょっとずつや。  泣けるけど。  「お前がオレの近くにいてくれる限り、オレはお前より先には死なん。だからお前がオレの死体は喰われへん。だから赤と黒のもんや」  アイツは言った。  「なんで・・・僕か先に死ぬんや?」  そこは普通に疑問やった。     僕を殺す気かいな。  殺されてもしゃあないことをしてる自覚はある。  色々アイツを追い詰めてる自覚はある。  愛故に。    アイツは淡く笑った。   「お前より先に死んだらお前を守られへんやん。言うたやん。オレ、お前を守るって」  ものすごいさらりと言うたから、アイツの中では大したことことがないくらい当たり前のことなんやと分かった。  「だから、オレの死体は赤と黒のもんや。わかったな」  アイツは赤と黒を愛おしげに抱きしめた。  僕はもう。  僕はもう。  あかん。  たまらん。  もう関係ない。  コイツ・・・。  ときめきすぎました。  めちゃくちゃキュンとしました。       コイツ、どんだけ僕が好きなん?  あかん。  犯す。  ここが広場の真ん中でもかまへん。    やりたい。    可愛い。  可愛い過ぎるやろ!!  

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