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獣 17

 男は笑っていた。   弟子が手にした本は消えたのだ。  偽物。  幻だ。  どうやらあのボーヤもタカアキみたいに奇妙な技を使うらしい。  そんな話は聞いていなかったけどな。  あの男はいつだって全てを後から明らかにする。  今回はそんな余裕などないはずなのだが。  出し抜かれた弟子が怒り狂うのを男は笑いながら見ていた。  この本に夢中になってる間に見事に逃げられた。  どう逃げたのか全く分からないが、大したものだ。   あのボーヤはマジックを知っている。  視線の誘導。  それが一番大切なことを。  狙いの本が投げられたなら、どうしても見てしまう。  「賢いな」  痩せた少年を思い出す。  どうやら弟子の弟の友人のようだが・・・。  友人?  あの弟くんにそんなモノがいたのか。  男は首を傾げる。      弟については数年前から気にしていた。   ・・・あの子は違う。  弟子であるあの子の兄はそう、狡猾で、邪で、自分勝手ではあっても所詮、小悪人だ。  どこまでも人間臭い人間だ。    悪にもなりきれない。  可愛いところもある小悪党だ。  だが、その弟のあの子は違う。     あれは獣だ。  善悪の基準すらもたない、  己の想いのみに忠実だ。  友人、それに恋人だと?  どうやって付き合ってるんだ。  振り回されて貪られるぞ。  本人には悪気など一ミリもないだろうが  あそこの家族は変わっているから小悪党の長男も、獣の次男坊も気にしてないが、普通はどちらが一人いるだけでも、家庭なんてものはボロボロにされる。  だがならない。  あそこの家はおかしいからな。  全員が暴力を使ってでも自分の意志を通そうとするような家だからこそ、この二人に家庭を壊されない。  特に弟くんは全く周りのことなど省みない。  好きなようにしかしないししてこなかったのを知っている。  誰にも止められない。  彼に好かれるのは猛獣に喰われるようなものだ。  食い尽くされるぞ。  それとも・・・。  「・・・飼ってやろうと思ったんたがな」  男は呟く。    獣は放し飼いには出来ない。  人間の社会では。  だから男が飼い慣らしてやろうと思っていたのだが。  「恋人とやらに飼われているのか?」    恋人があの獣を飼い慣らすのか?  それとも恋人があの獣に食い尽くされるのか。  「面白い」  男は笑った。      

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