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悪意 7

 そう、そういうわけで、僕はマンションの壁を登っている。  べっぴんさんのバケモノの胴体にしがみつきながら。  お姫様の虫は、ものすごい勢いで壁を登っていく。  人がアリみたいに見える高さ、アウト!!  たくさんの脚が人間の腕になってる虫、アウト!!  その虫の脚というか腕に抱きつかれてる、てか落ちないように掴んで貰ってんのもアウト!!  虫の感触がする胴体に捕まってるのもアウト!!     なんか色々アウト!!  僕は泣いてる泣きまくってる。    「だから待ってろ言うたのに」  アイツは冷たい。  「嫌やぁ。一緒におるもん」  僕は鼻水まで垂れ流しながら言う。  またアイツの口元が歪む。  どうやら笑っているらしい。  なんか嬉しそうやな。  「・・・何と引き換えに頼んだんや」  それだけは聞いて置かなければならなかった。    白の時みたいに「精液」  赤と黒の時みたいに「自分の死体」とかを引き換えにしてへやろな。  お前は僕のやぞ。  髪の毛一本でも他にはやらん。  「大したことあらへん。彼女達は招かれない限り建物の中に入ることができへん。彼女が今度どこかへ入りたい時に僕が中から招いてやるっていう交換条件や」  アイツはさらりと言った。  「物理法則は常に彼らは無視しとるけど、彼らは彼らで別の法則に縛られとるんや」  アイツは言った。  そういえばそういう説明を前にしてもらったような気もする。  赤と黒は基本的に屋敷から出れない。  アイツの影に入って出る以外では。  外ではアイツから遠く離れられないのだとか。  何故そうなのかわからないけれど、決まりごとがあり、彼らはそれに従って動いてる。  この世界の物理法則は守らなくても。  「彼女が人を襲うために建物に入りたかったらどうするねん」  僕は気になった。  「・・・ま、それはその時考える」  アイツは軽く流してしまった。   おい。  おい。    「彼女が人を襲うなら、それは人の方に非があるはずやしな」  おい。  おい。  時々思う。  コイツは人の側に立っていないのかもしれない。  26階の通路に僕らを下ろすと、彼女は一番美しい腕をアイツに向けた。  のこりの脚というか腕はザワザワ蠢いている。    こんなん嫌、ムリ、死にたい。  僕は生理的にあかん。  あかん。  でも確かに「お姫様」のように美しい顔だった。  「なやらさかな?」  柔らかに彼女は言った。    「なやらさか」  アイツは微笑んで答えた。  お前人間には無愛想なのに、バケモノには・・・おっと「彼ら」には愛想ええねんね。  アイツはその伸ばされた手をとり、また恭しく、額にその手を押し付けた。  綺麗な指、綺麗な顔の女。    それかアイツの側にいる。  でも、流石に流石にこの僕でさえも焼き餅は焼かなかった。    だって彼女の綺麗な唇を開けたら棘だらけの口腔が見えるし、これじゃキスもできへんし、虫やしさすがにセックスできへんやろ。  いや、用心するべきなのか?  むしろ人間よりコイツのガードが緩いし?  僕は悩んでしまった。  彼女はガサガサとたくさんの腕を蠢かせて、瞬く間に壁を這って降りていった。  

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