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狩り 6
何でだかわからんけど凹んだアイツを抱きしめていられたのは・・・そんなに長くはなかった。
残念ながら。
「くっつくな!!」
手を繋ぐか、肩を抱こうとしたら怒鳴られんねんで。
酷い・・・。
「ベタベタすんな。キモイんじゃ!!」
アイツは本当に嫌そうな顔をした。
僕より少し先を歩く。
2メートル離れて歩け言われてた時よりはマシか。
それでも。
「ベタベタどころか咥えたり嵌めたりしている仲やん」
僕はふてくされる。
手つなぐなんかよりはるかにスゴイことしてんのに。
「お前のそういうところ最低や!!」
アイツは顔を真っ赤にして怒鳴る。
照れてる。
可愛い。
何してても可愛い。
何言うてても抱いたら涙目で縋るくせに。
ああもう可愛い。
そんな酷いこと言うてたら、後で泣くまでいやらしいこと言わせちゃうで。
後ろガンガンつきながら。
ああ、最高や。
「ニヤニヤすんな!!エロいことも考えんな」
アイツは癇癪を起こす。
僕の妄想までわかったらしい
なんでコイツ心読めるん?
「顔に書いとるやボケ」
アイツはまた僕の心ではなく、顔に書いとるんを読んでいった。
どう書いてんねん?
しかし
「で、これからどうやって猫殺し探すん?」
僕は尋ねる。
この街がそれ程大きくはないとしても、隠れるところはたくさんある。
本気で隠れられたら僕達では見つけられない。
僕達は繁華街の真ん中を歩いていた。
高校生の僕らが歩いていても、誰も気にしない。
たまーに警察が補導しとるけど、騒いでたり、ラリってた時位や。
すれ違っても別に何も言われへん。
「それについては考えとるついてこい」
アイツは言った。
アイツはどんどん歩いていく。
僕はついて行く。
メインストリートから路地を抜けるとそこはデッカイ鳥居がある神社だった。
そう、この罪深い街は神社と隣り合わせにある。
隣りは寺町や。
お寺ばっかり集められている珍しい町や。
神社もいくつかあって、この大きな鳥居は寺町のシンボルになってる。
ほんとデカい鳥居や。
小さなビル位はマジである。
そして、鳥居の下には小さな公園もある。
アイツは迷うことなくこの公園にやってきた。
なんで?
「あまり関わり合いにならん方がええ、思っていたけどな・・・しゃあない」
アイツは呟くように言った。
なんのこと?
アイツはキョロキョロと周辺を見回した。
そして、ベンチに座っている男を確認する。
男はカップ酒を飲んでいた。
安いアルコールの臭いを漂わせ、薄汚れた姿で酒を飲んでいる男を僕は知っていた。
有名だった。
イカレた酔っ払い、って。
どうやって生活しているのかもわからない。
一日中、こうやってこの街のどこかて飲んだくれている。
フラフラとカップ酒片手に街を歩きまわっているのだ。
「ワンカップ」と僕らは子供の頃からコイツのことを呼んでいた。
・・・ワンカップを飲んでいる酒飲みはもう末期だと僕らは知っている。
「これを飲んだら終わり」と思い続けているからだ。
もちろん、飲み終わったら「もうこれで」とまた次のカップ酒に手を伸ばすのだ。
僕はお酒を飲もうと思わないのは、酒はドラッグだとよくよく知っているからだ。
止められなくなった哀れさを知っているからだ。
最初から呑まん方がええ。
ソイツはこの街によくいるどうやって生きているのかわからないアル中の一人だか、何故他の奴らとは違って有名なのかと言うと、だ。
僕は近づこうとするアイツの肩を掴む。
何故なら男はアルコールで濁った目のまま、ベンチに座って俯き呻いているからだ。
「殺す・・・殺す・・・殺す・・・」
凄まじい憎しみがその声からわかる。
特定の誰かへか、それてとも不特定多数への憎しみなのかはわからないが、この憎しみがこの殺意が本物であることだけはわかる。
だから有名なのだ。
その殺意の凄まじさに、ホームレスや酔っ払いをいたぶって遊ぶような連中でさえ、このアル中には近寄らない。
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