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狩り 7

 「殺してやる!!」  震えながら男は叫んだ。  時折叫ぶのだ。    「近寄らん方がええ」  僕はアイツを止めた。  「そやな、でも、しゃあないねん。他に聞けるもんがおらんからな」  アイツはため息をついてそっと僕の手を肩からどけた。  僕は眉をひそめたが、いつでもアイツを守れるようにスイッチを入れた。    「おっさん・・・悪いけどええか?」  アイツはアルコールを含んだ悪臭との漂う、薄汚れた男の隣りに座った。   コイツ、ホンマに度胸が座ってるよなぁ。  僕なら嫌や。  絶対。  男は淀んだ目をアイツに向けた。   意外にも憎しみはなかった。    でも僕は男がアイツに襲いかかった時に備えて構える。  「・・・なんや」  意外にも理性的な声やった。  僕は目を丸くする。  正直言葉が通じるとさえ僕は思っていなかった。  「おっさんやなくて、おっさんの中におるもんに用はあるんやけどな、一応おっさんにも断っておこ思てな」  アイツは言った。      男はゲフゲフと笑った。    「知ってんのか。・・・人と話するのは久しぶりやな。いつもコイツ以外とは話すことなくてな」  男は言った。  その声にはユーモアとも言える調子があった。  アイツの隣りに立つ僕の顔を見て男は唇を歪め、また笑った。  「キチガイやと思てたんやろ。顔に書いとる。狂てるかもしれんが、常々狂ってるわけやない」  男の言葉に顔を撫でる。    マジ僕の顔に書いとるんかいな。  「たまーに、あんたみたいなんがオレらを見つける。化け物としてな。なんでわかった?」  男はアイツに聞く。  「そんだけ呑んでんのに死なへん。倒れてんのも見たことない。あんたはオレが小さい頃からその状態や。普通はとっくにしんどる」  アイツは言った。  そうや。  確かに。  末期のアル中はいなくなる。  人間の身体はそんなに丈夫ではないのだ。  ある日見なくなり、永遠に姿を消す。  なのにこの男はずっといる。  ずっと飲み続けているのに。  長生きするアル中は酒を止めてる時期と呑んでる時期を繰り返し、迷惑をかけ続けるが、この男が呑んでないところを見たことはない。    「・・・生かしてくれとるんや。コイツがな。生きる価値のないオレをな」  男は笑った。    「そのせいで、酒の効きも弱なって・・・呑んでも呑んでも足りん。・・・兄ちゃん、あんた変わってるな。ちゃんと話かけてきたんは、人間として話しかけられたんは・・・久しぶりやな」   男の笑顔は・・・普通のおっさんの笑顔にみえた。    僕は思わなかった。  一度も思わなかった  「殺す殺す」と呟いているアル中が、人間だとは。  避けなければならないモンスターだとしか・・・思わなかった。  「・・・同情はせんで」  アイツは肩をすくめた。  「そんなもんが欲しかったんは遠い昔や。・・・ええで好きに話せや。なんなら耳は塞いどいたる」   男はカップ酒にまた口をつけた。   「別に内緒話やないし」  アイツは唇を歪めて笑った。  おっさんは、また酒をあおった。  そして着ていた作業着みたいなジャンバーのチャックを開けた。  ついでに、薄汚れたトレーナーとシャツもめくりあげた。  観たくもない見事に汚い毛まで生えた腹がみえた。    うぇぇ  アイツの腹やったらへそにまで舌挿れたなるけどこれはなぁ。  僕は汚い腹に嫌になる。  でも、確かに酒しか呑んでへん人間の身体やなかった。  最後はガリガリになる。  なのに男の腹は突き出ていた。  「お前に会いにやと」  男は言った。  自分の腹に。     ゴボゴボ  男の毛のはえた腹が波打った。   まるで妊婦の腹みたいに。  「・・・お前もたまにはオレ以外と話したいやろ」  男は友達に話かけるように微笑んだ。  腹に向かって。  「上手くやってるんやな」  アイツが呟く。  「コイツだけやからな。オレを必要としてんのは」  男は言った。  グポン  まるで潜水していた人間か水面に顔を出したように、顔が腹から現れた。  しわくちゃの・・・猫殺しの背中に生えていたようなヤツや。  僕は後ずさった。  ビビった。  マジビビった。  「なられしら」  それは言った。  

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