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狩り8
「あんたの言葉はあんまり知らんのや・・・、あんた喋れるやろ。あんたのが言葉は上手いんや。あわせてもろうてええかな」
アイツは言った。
しわくちゃの顔は少し首を傾げた。
おっさんの汚い腹からクチャクチャの顔が生えているのは・・・気持ちわるかった。
しかもそのデカい目だけは膿んだような熱を感じるのだ。
「ひぃ」
僕はまた一歩後ずさった。
なれへん。
なれへん。
赤とか黒とかみたいに外見だけは小動物みたいなんやったらともかく、これはこれは、キモイ。
「ひびんな」
アイツは僕を見てため息をついた。
おっさんも、腹から生えてる化け物もため息をついた。
何、その目。
情けない、みたいな目。
こんなん怖いに決まってるやん。
「オ前ノこトハ知ッてる。当主。我らノ仲間を追っテるノダな」
腹から生えてる化け物「殺意喰い」やっけ?は、思いの外甲高い声で喋った。
人間の言葉で。
「まだ当主やない。じいさんは死んどらんからな。帰ってこんけど。そうや、お前の仲間を身体に入れとる奴を探しとる。教えてくれんか」
アイツはストレートに聞いた。
「猫殺しカ?」
ため息を化け物はついた。
「あんた達は人間に寄生してるから、互いに直接会うことは難しい。でも、間違いなく何らかの形で仲間同士交流してるはずや。あんた達にはオレらは縁がなくてな、知ってることは伝聞か仮説しかないけどな」
アイツは言った
「仲間ノ住処にツいて我らガ語ると思ウか?住処と我ラは同ジ命ヲ共有シていル」
殺意喰いは話すことを拒否しようとする。
住処ってのは寄生している身体のことだろう。
「猫殺しの中におるもんは苦しんどる。オレに助けを求めた。あんたらかて仲間を心配しとるんやろ」
アイツは言った。
え、そうなの。
そういや、猫殺しの背中に生えてたヤツなんか叫んどったな。
「あやゆこら、なやひさ」
アイツは言った。
多分、その時に殺意喰いが猫殺しの背中から叫んだ言葉やろ。
何言ってんのかさっぱりわからへん。
ピクリとおっさんの腹から生えた殺意喰いが震えた。
「なやから、なやから・・・」
小さく何度も頷きながら呟いた。
「次期当主。ドうすルつもリか?」
殺意喰いはズルリと男の腹から上半身まで出してきた。
カリカリやせて、顔以上にしわくちゃな身体は気味悪い。
「猫殺しを人間に引き渡す。自分の母親を襲ったんや。人間も無視できへんかったやろ。どこかに閉じ込めさせる。もう二度と猫を殺したり出来へんようにな。必要ならオレが金を出してでもそうする」
アイツは言った。
「人を襲わんようにやなくて、猫を襲わんように?・・・それにお前が金出すて・・・?」
僕はアイツの言葉にひっかかる。
「オレは猫殺しが猫を殺すのを止めることを頼まれてんのや。人間のことは知らん。・・・ちなみにオレはめちゃくちゃ金持ちやぞ」
アイツは言い切った。
ええ、何ソレ。
確かにお屋敷にすんでるけど、家の中古いし、お前めっちゃ質素に暮らしてるし、そんな金持ちやとは思わんかったぞ。
「僕養ってくれる?僕こうて」
本気で言う。
僕働きたくないもん。
働かなあかんからバイトして働いてるだけで、できるんやったらずっとコイツとセックスしたりイチャイチャしたい。
「ヒモはいらん。金で誰かを買う趣味はない」
断言された。
「お前やったら買われてもええと思ったんやけど?まぁいいわ。このまま金より愛とセックスで僕をこうてね」
僕はあっさり引き下がる。
「だれがだれを買うてるんや」
アイツは軽蔑しきった顔をするけど気にしない。
後でセックスで支払って貰おう。
僕を飼うてるんやから。
お前にやったら飼われたる。
お前が僕の飼い主や。
「とにかく、猫殺しはどこかに閉じこめる。あんたらは『殺意』さえあればいいんやろ。実際に殺す必要はない。猫殺しは殺意をなくすことはない」
アイツは言い切った。
「もともとは大型の肉食動物に寄生していたんやろあんたらは。獲物への殺意を喰って生きてた。大型の肉食動物がおらんなって、しかたなく人間に寄生してるんやろ。これほど殺意を日常的に持つ生きもんはおらんしな。・・・ホンマはこのオッサンみたいなんが理想的なんやろ。殺意だけに満ちて、実行はしない。あんたらは別に他の生き物の苦痛が欲しいわけやない」
アイツの言葉に納得する。
ずっと殺意だけを満たしたこのオッサンは殺意喰いには理想的な住処なのだ。
悪意喰いが欲しいのは殺意だけ。
本当に殺すことじゃない。
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