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狩り 10

 アイツはその醜い手に唇を近付けた。  子供の手ほどの大きさの指を口に含んだ。  噛みしめたのが分かった。  アイツの白い喉が動いた。   ヤらしいな。  としかおもわん。  もう咥えさせたいとしか思わへんよね。  アイツはゆっくり指をくちから出した。  唇に墨汁のように真っ黒い液体がついていた。悪意喰いの血液なのだとわかる。    ゾッとした。  こんなん・・・飲んでいいんか?  「少シすれバ、我等がドコにイルのか分かる筈ダ。その能力ハ今夜一杯は使エる筈ダ」  黒い墨汁を指先から滴らせながら悪意喰いは言った。  「・・・我等とお前の家ノ縁ガこれデ繋がっタ。末永クアラんコトを望ム」  悪意喰いはそう言って、ズブズブとオッサンの腹の中に潜っていった。  「末永くあらんことを」  アイツは唇についた黒い汁を舌で舐めてから言った。  やっぱり嫌!!  本当に嫌!!  僕のもん以外飲んだら嫌!!    僕はなんか頭にきちゃう。  「終わりや」  オッサンが言った。  汚い腹をシャツで隠す。  「・・・・・・また会いましょう」  アイツはオッサンに言った。  ベンチから立ち上がる。  「・・・また、な」  オッサンはカップ酒を煽る。  アイツはぺこりと礼をすると歩き出した。    「じゃあな、おっさん」  僕もおっさんに言った。  手を振る。     普通のオッサンやと分かったから、僕はこれからこのオッサンを見かけたら声をかけるとおもう。  見ているだけでは・・・わからへんことはある。  オッサンに笑いかけたら、オッサンは唇を歪めた。  笑ってんのやろ。  オッサンは僕に手を振ってくれた。  アイツを追いかけて歩く僕の耳にオッサンの声が聞こえた。  「殺す・・・殺す・・・」  溢れんばかりの殺意。     振り返る。  オッサンはまた公園のベンチで俯き、殺意を滾らせながら、カップ酒を飲み続けていた。  誰も知らない。  このオッサンが誰も傷つけたりしないこと。  話してみれば普通のオッサンなこと。  そして、その身体の中に化け物が住んでいること。  誰も知らないのだった。          

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