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狩り28
この町の車には大抵、野球のバットやバールや巨大なレンチが防犯用に積まれている。
防犯用や。
うん多分。
加害用やとは思わん。
だから、車の中に何かがあるはずだと思って探したのだ。
猫殺しは素手でやり合える相手ではないから。
そして、いかにもな、フルスモークが張られた、安っぽい電飾までつけられた中古のスポーツタイプの車の中を探した。
で、やはり、そういうのが載せてあったわけだ。
こういうの、車に積むのは厳密には違法らしいが、そんなのこの町では誰も知ったことではない。
こちらに飛んで落ちてくる猫殺しに、先が尖ったバールはバッチリやった。
猫殺しの目が僕がこのためにかくしていて、そして今自分をつらぬくバールを見て、大きく見開かれた。
僕がこの瞬間を待っていたことを・・・猫殺しは知ったのだ。
猫殺しは重力には逆らえなかった。
逆らえる程の時間もない。
僕は生まれて初めて人を串刺しにする感覚を知った。
ドシュッ
この手に伝わってきたのは
重い肉を突き抜ける湿った感覚やった。
猫殺しの胸をみごとに、バールは突き抜けた。
片手で重さと衝撃を支えられず猫殺しの身体は僕の上に落ちてきた。
「ぐきゃああああ!!!」
猫殺しは僕の目の前、キス出来る距離で、口を限界まであげて叫んだ。
白い喉が反らされるのを僕は見た。
噴水みたいに血が僕に向かって吹きだしてくるのも。
僕の上にその身体が落ちて、僕は・・・僕が胸を貫いたその肉体を自分の身体で受け止めとった・・・。
「よし!!ようやった、すぐにそこから退くんや!!」
わけわからんなってる僕の耳にアイツの冷静な声が響いた。
僕はアイツの言葉になんかもう、操られるように動いてた。
人なんか、貫いたん初めてや。
貫く時は一切の迷いなくやったけど、ただ痙攣している猫殺しの身体を自分の上にあったらさすがの僕でも、動揺するちゅうねん。
僕は猫殺しの身体を突き飛ばし、慌ててアイツの声の方へと駆ける。
アイツは少し離れたとこに立っとった。
「出来るだけ離れとけ!!」
近寄ろうとしてる僕にアイツは怒鳴った。
その理由はすぐにわかった。
アイツはオイルライターを手にしていた。
アイツは煙草吸わない。
多分、飛んできたドアのポケットに入っていたんやろう。
そして、アイツはこれを見つけ拾った時に・・・、車から漏れ出すガソリンとオイルを見た時に・・・、使い道を決めていたのだ。
「お前もオイルとガソリンにまみれてるとるからな、絶対にはなれとけ!!」
アイツは僕に怒鳴った。
アイツはオイルライターに点火し、車から漏れ出すガソリンの流れに向かって放り投げた。
ガソリンの流れは潰れた車と、串刺しになった猫殺しの方から来とった。
やけにゆっくりと火のついたライターがとんだ気がした。
串刺しになりながら猫殺しが、そのライターを見て吠えたんを聞いた気がする。
ぽわっ
着火する音が思いのほか軽かったこと。
ほんの一瞬で炎が車までたどりついたこと。
猫殺しがあっと言う間に炎につつまれたこと。
焼かれる肉の臭い。
焼かれる肉が縮む。
髪が燃えて煙る。
全てが非現実的やった。
今更やけど。
「うぐぁぁぁあ!!!」
猫殺しの声がいつまでも響く。
悲鳴。 悲鳴。
熱風。
冷気に満ちたこの場所が、突然熱気につつまれたこと。
そう、全てか遠い。
僕はどこか遠くの出来事を見ているような気がしとった。
「終わりや!!」
アイツは冷静にそう言った。
「お前になんかに渡さへん!!絶対に渡さへん!!」
アイツは叫んだ。
誰を、とは聞かなくても良かった。
僕は・・・。
その場でわんわん泣いた。
嬉しかったのだ。
「・・・何泣いてんねん」
アイツがホンマに分からんらしく焦っていた。
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