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狩り29

 「これで・・・猫殺しは死んだん?」  僕は恐る恐るアイツに聞いた。    力ない低い呻き声しか今しなかった。  炎は消えることなく燃えていた。  消防車を呼ぶ必要がある。  というより、いくらなんでも・・・この騒ぎて、通報がないのはおかしかった。  この町の住人は悲鳴なんかで通報しない。  でも爆発音や火には敏感だ。  悲鳴は他人の話だが、爆発や火は自分にも関わることだからや。  アイツは僕の腕を縛って止血してくれている。    「いや、燃やした位では死なん。悪意喰い自体はそんなに強い生き物やないけど、自分の住処を生かしておくことは徹底しとる。ほぼ不死身にしてんのと同じや。住処になった人間が死ぬのは病気での死と、悪意喰い自身が生きることを放棄した時だけや」  アイツは言った。  じゃあ、アレでも死んでへんのん?  串刺しになったまま燃えている猫殺しを僕は見た。  まだ、生きてはいた。  低い呻き声だけが、駐車場に響き続けている。  男のものとも女のものともわからないその呻き声だけが高架下に響き続けている。  「ああ。でも、もう終わりや」  アイツはやけにきっぱりと言った。    何で?  何で?  何でそんなことが言えるん?  串刺しにされた肉体は、それでも動きはじめた。  蠢き、それでも炎の中から這いだそうとしている。  僕はゾっとした。  この状態からでも・・・動けるんや。  ズルリ、ズルリ、それは炎の中から、串刺しになったまま這い出てきた。  ぬががががががががぇぇぇえ  呻き声がする。    もう、真っ黒に除け焦げ、縮んだ肉が、切れ込みみたいになった中までやけた口腔をみせて呻く。  真っ黒な舌がみえた。  ズルリ  ズルリ  焦げた肉が這い出してくる  縮んだ肉に串刺しになっていたバールが抜け落ちた。     カラン  バールが落ちる音がした。    黒こげの肉は何か汁を滴らせながら這い出てくる。    いやぁぁ  怖い!!!  ぬがええぇえぇ  それは鳴いた。    そんな姿にしたん半分位は僕のせいやけど、僕らでこうしたんやけど・・・。  怖いいい!!!    僕はビビった。  「遅いんや!!」  アイツが吐き捨てるように言った。    僕にやなかった。  駐車場の入り口に立っていた二人組にやった。  「ごめんごめん。悪かったね」  愛想良く低音が響いた。  「結界張ったのはお前だろ。オレは本職じゃないんだから分からなくても仕方ないだろ。それに・・・これも取ってこなきゃいけなかったしな」  男か笑いながら言った。   男が手にしていたのは一振りの刀だった。  それを肩に担いでいた。  ヤクザのカチコミかいや。  2メーター近い巨大な身体。  オーダーメイドのスーツの上からでもわかる、分厚い筋肉。  穏やかな話し方と優しげな声はしていても、その身体からは暴力の匂いがつきまとう。  師匠や。  兄貴の飼い主。  兄貴の師匠。  もう一人の男が何個も担いでたソレを猫殺しと車にぶちまけ始めた。  消火器だ。  ピンクの煙に車も猫殺しもつつまれていく。  僕の兄ちゃんやった。  せっせと消火活動に勤しむ。  高級スーツを汚しながら。  師匠の命令やなかったらこの男がこんなに勤勉に働くことはありえへん。  自分の兄貴やけど、コイツとことんクズやから。  「実はちょっと前に着いたんだけど、車燃えていたからコイツにそのへんの建物から消火器あつめさせてたんだ」  師匠は窃盗を明るく認めた。  「燃やすなんてメッセージにはなかったしな」  師匠は笑った。  結界?  メッセージ?  なんのこと?  師匠はポケットから白い紙でつくったモノをとりだした。  人の形に切り抜かれた和紙だ。    「これが飛んできた。タカアキが良く使うヤツだ。だから君がオレを呼んでるんだってわかった。これに導かれてここまてで来た」  師匠は言った。  どうやらアイツはここに着いて「時間を稼げ」と僕に言うてる間にそんなことをしていたらしい。  助けが来るまで時間を稼げと。  「結界張ったのもお前だろ?おかげで見つけられなくて困った。タカアキから聞いていた目を瞑って道を探すのを思い出すのに時間がかかったし。タカアキと同じ術を使うんだな、さすがだな」  師匠は笑う。  「・・・オレは科学をしとんのや。タカアキみたいなイカサマ術士と一緒にすな」  アイツが憎々しげに言った。  アイツがタカアキと云うヤツが嫌いなのは良く分かった。  どういう関係なんや  男の名前に僕はイラつく。   「オレから言わせればお前ら良く似てるけどね、さすがに」  師匠は面白そうにアイツに言った。  アイツは唾を吐き捨て、不快感を露わにした。    

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