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それから1

 左手が折られているから片手だけで斬った割には首は綺麗に斬れた。  師匠に真剣での切り方のレクチャーを受けたことがあるおかげやろうか。  斬ったんは竹やったけどな。  アスファルトの上に猫殺しの首はゴロリと転がった。  まだ首は涙を流しとった。  涙はしばらく流れ続けた。  「可哀相ナ子」  切り離された猫殺しの身体の方で殺意喰いも泣いていた。  しなびた顔に涙を浮かべ、上半身を猫殺しの腹から生やし、殺意喰いは呟いた。  「可哀相ニ、可哀相・・・かわイ・・・」  この奇怪な化け物だけが、猫殺しの死を哀れんでいた。  首の切断面から血が流れだすのに合わせて、殺意喰いは次第に動かなくなった。    何度か身体をひくつかせ、最後に止まった。  死んだのだとわかった。  奇怪な生き物を腹から生やした、首も手足もない死体だけがそこに転がっていた。  終わった。  僕はそう思った。  「鞘を投げるな。一応いいものなんだぞ」   師匠が苦い顔をして言った。  片手なので鞘をぶんなげたのを怒っているらしい。    拾ってきた鞘を持っている。  「ごめんなさい」  僕は素直に謝った。  終わった。  終わった。  僕は刀を師匠に返すと、アイツの元へ走った。  終わった。  終わったんや。  笑顔になっていた。  アイツの表情は硬かった。  強張った顔が僕を見ていた。  アイツは震えていた。  僕は構わずアイツを抱きしめた。  腕折れてるし、出血も結構しとるから・・・今日はやれへんかなぁ。  でも、いい。  せめて抱きしめて寝たい。    はよ帰ろ。    病院いかなあかんけど。  「お前・・・なんで・・・そんなに平然と・・・」  アイツが震えていた。  え、何があかんの?  僕はわからなかった。  「お前・・・人を殺したんやぞ!?」  アイツは怒鳴った。  「それがどうしたん?」  僕はさっぱりわからない。  「それがどうしたん、てお前・・・」  アイツは何故か絶句した。  誰も猫殺しに生きていて欲しくなかったし、猫殺しは死にたかったし、悪意喰いもそれを望んでた。  何があかんの?  僕はアイツに顔をすりよせる。  めちゃくちゃキスしたい。    人前やったら嫌がるから我慢我慢。    何故か僕の腕の中でアイツは堅くなっとった。  「・・・その子はそういう子だよ。善悪の基準がない。獣だよ。よくわかって飼うんだな・・・」  師匠がアイツに言った。  そうそう。  お前が僕の飼い主や。  僕はお前の言うことなら何でも聞くで。  僕はアイツに身体全体を擦り付ける。  好き。  めっちゃ好き。  「お前・・・」  何故かアイツの声は何故か痛切だった。    「バカ、殺してどうするんだ。死体の処理に困るだろ」  兄ちゃんに言われて気付く。  あ、それ、考えてへんかった。  しかも、腹から化け物が生えてる死体・・・。  どう説明すればいいんや。  「死体になってしまうと始末が面倒になるぞ。高くつくぞ」   師匠がさり気なく値段交渉をはじめた。  僕から金とるの?  あんたいつも「一応堅気」って言ってるけど・・・どうなん、それ?  アイツの家の力とやらでなんとかならん?  ならんかな?  「あんたら・・・」  アイツは何故か言葉を失っている。  僕は困って死体をみつめた。  これ、どうしよ。   猫殺しの死体に不意に異変がおこった。  猫殺し死体から、殺意喰いの姿が枯れていく。  最初から枯れてるような姿やったけど、さらに黒くしなびて ・・・  アイツが突然僕を突き飛ばした。  「転化や!!」  アイツは叫ぶ。  ゴソゴソ携帯を取り出し撮影を始めた。  えっ何?  「まさか実際に見れるなんて・・・伝聞での記録には残ってるけどどんなものかはっきり分からんかったのに!!」  アイツは興奮している。  どうやらアイツの研究者の魂が騒ぎまくっているらしい。  化け物達とその世界の解明がライフワークやからな。  「転化って?」  聞く。  「殺意喰いはいわゆる繁殖はせんのや、死んだらその身体がバラバラになり、砂になり、それが風に乗って漂い、新しい宿主を見つけ、その体内に入り込み、新しい殺意喰いが生まれるんや!!そう言われてたけどな。ホンマやったんや!!」  アイツは嬉しそうや。  ふうん。  枯れていく殺意喰いは、バラバラになり、サラサラの砂になった。  砂はフワリと塊のまま宙に浮かんだ。  そして風の中にとけていった。  

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