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それから2

 砂になり、漂いどこかの誰かをさがすのだ。  殺意に満ちた誰かを。  今度は心優しい化け物が泣かなくてもいいヤツだといいな。  公園のおっさんみたいなヤツのたった一人の友達になれるといい。  僕はそう思った。  風が全ての砂を吹き去ると、残ったのは猫殺しの死体だけになった。  腹から変なもんは生えてないけど、面倒くさい死体なのには変わりない。  どうしよ。  僕、刑務所?  やってしまってから死体の処理は考えてなかったから困ってしまった。  「旨!!」  一つ目案山子が指先で猫殺しの頭を摘まんだ。  飴でも食べるかのように、口の中に放り込む。  あっと言う間に食べられた。  ええっ?  アイツの影の中から、赤と黒が飛び出してきた。    えっ、何お前らそのテンション。  めっちゃめちゃハイになっとるやん。  「やからはし!!」  「やなかりさ!!」  キイキイ叫んで踊り狂うと、次々の瞬間、猫殺しの死体にかぶりついた。  ええっ・・・・。    牙をむき、ガツガツと死体を貪る赤と黒はピラニアのようだった。  バリバリ骨まで食べる。  どこに入るん・・・その身体の。  「欲!!」  兄貴は猫殺しの両腕両脚入りのゴミ袋を、一つ目案山子に要求されて、少年を抱いたまま大人しく渡していた。  少年を渡さなかっただけ、兄貴的にはマシやった。  「旨!!」  スルメ食べるノリでその腕脚をたべてる。    「こりゃ、いい死体処理だな。死体かなければ殺人事件はないからな」  師匠が感心していた。  兄貴もさすがに引いていた。  僕かてどん引きやでこんなん。  赤と黒はもう可愛らしいぬいぐるみっぽさは捨て去ってる。  コイツらガチの猛獣やん。  アイツも真っ青になってみていた。    結局、半分は赤と黒が食って、残りは一つ目案山子が飲み込んだ。  死体は綺麗さっぱり消え失せていた。    髪の毛一本残してなかった。  その凄惨な光景に兄貴の腕の中の少年は再び気絶し、アイツは固まったままやった。  「謝!!」  一つ目案山子が響き渡る声で言った。  デカい金色の目が細められて、とても喜んで居ることがわかった。  猫達が殺されたのがとても悲しかったのがわかった。  「いや、礼ならええで。僕やないコイツのおかげや」  僕は言う。  かなり慣れてきたので話するのも平気になってきた。  「謝!!」  一つ目案山子はアイツにも言った。    アイツは堅い表情のままやった。  せっかく転化の様子を動画にとれたのに。  「治!!」  一つ目案山子は僕の折れた腕にそのデカい指を伸ばした。     「えっ治してくれんの?助かるわ。サービスやろ?」  止血はしてくれてるが、早よ病院いかなあかんし、下手したら二度と使えんなるレベルのケガや。     でもこれも新しい契約なら困る。  「諾!!」  サービスだと一つ目案山子は請け負った。  よっぽど嬉しかったんやろ。  指が伸ばされ、僕の折れた腕を撫でた。    何でこんなんで治んねんていう位簡単に治った。      「おおっ!!」  僕は治った腕を振る。    これ、いけんちゃう。  いけんちゃう。  ヤれるんちゃう。  このまま帰ってアイツを抱けるんちゃう。  僕は先程の赤と黒並みにテンションがあがる。  思わず踊る。    アイツを抱きしめる。  赤と黒は食うだけ食って、アイツの影に潜ってしまった。     「喜!!」  一つ目案山子は文字通り大きな笑顔を浮かべてた。    クアン  また金属的な音がして・・・かき消すように消えた。    バシュ  バシュ  バシュ  何かが切れるような音がした。  それと同時に紙をきりぬいて作られた人形が、4つフワフワと落ちてきた。  「結界がきれたな」   師匠が言った。  夜はもう明けようとしていた。    「後の始末はまかせとけ」  師匠が言ったので、僕とアイツは家路につく。  師匠は笑顔だった。  アイツにふっかけるつもりだろう。  アイツ、金持ちなんか。  ふうん。    僕は転びそうになってアイツに支えられた。    フラフラしてしまう。  やはり、血液が足りないのだ。  「病院に・・・」  「嫌や」  アイツの言葉をさえぎる。  お前を抱きしめたいんや。  さすがに今日はヤるのはムリでも。  抱きしめて眠りたい。  「タクシーで・・・」  「血まみれでタクシーのられへん」  一応手足や顔を公園で洗って、血で汚れたシャツは捨てて、素肌に脱いでおいたスタジャンをはおっているけれど、よく見れば、あちこち血で汚れてる。  タクシーなんか乗られへん。  「ほんならオレにもたれろや」  アイツは言うが、箸より重いものを持てないアイツに体重なんかかけられるはずもない。  それでもアイツの肩を抱いて歩いた。  そうやって歩けるのが嬉しかった。    「ごめん」  アイツが小さい声で言った。  「巻き込んでごめん」  アイツが泣いてた。  まあ、僕の下ではよう泣かせてるけど、めっちゃ泣かせてるけどそういう、雰囲気の時以外で、アイツが泣いてんのは・・・見たことなかった。  とんでもなく気が強くて、いつも僕を罵りまくるアイツが泣いてた。  「何がや!!」  驚きよりも苛立ちが勝った。  僕は怒鳴る。  何を謝ってんのかわからんけど、下らんことやとはわかってた。   「オレ・・・お前を人殺しにしてもうた」  アイツは泣く。  震えながら泣く。    「なんや、そんなことか」  つまらんことや。  僕は笑った。    「そんなことやないやろ!!」    アイツが泣きながら叫ぶ。  「オレ、お前守るとか言うたのに・・・お前ケガして、殺されかけて・・・お前を人殺しにまでして・・・オレのせいや。オレの・・・」  アイツが崩れ落ちた。  僕らはアイツの家の近く、僕の町とは全く違うアイツの町にいた。   あの町からそんなに離れていないのに、畑や塀とは言えないような垣根しかない一軒家がポツンとポツンとある地域や。  古くからある家ばかりの所謂旧家があるところやった。  人通りは夜になればほとんどない。  だから、街灯の下の僕らは、二人だけやった。  「泣かんといて・・・」  僕は困った。    「泣かんといて・・・」  こんな風に泣かれるのは嫌や。  いくら僕がお前の泣き顔好きでもそれはこれやない。  僕はしゃがんでアイツを抱き寄せた。  しゃがむんも辛いから、街灯によりかかりながら座り抱き締める。  「僕に殺して欲しなかったんか?」  僕は囁く。  「当たり前や!!」  アイツが泣き叫ぶ。    「そうなんや」   僕は自分の胸にアイツの顔を押し付けた。  どうせ泣かせるんなら、僕の胸で泣かせたかった。  頭のてっぺんにキスして、アイツの首筋に顔をうずめた。  「僕はわからんのや。僕には何で殺したらあかんのかがわからへんのや」  僕はアイツに囁く。  法律とかそういうのではわかる。  でも、心情としてはわからん。  今回みたいに、猫殺しを殺すことで誰も困らない時ならなおさら。    「僕な、そういうことわからんから僕の家族は、僕をボッコボッコにして教え込んだんや。人と喧嘩したらあかんて」  父親、母親、姉ちゃん、お前かて間違ってるやろってはずの兄貴にまで殴られた。  泣きながら殴られた。  みんな怖れていた。  何なのかわからんかかったけど、今わかった。  僕が誰かを殺すことを怖れてたんや。  兄貴は別。  アイツは面白がってただけや。  それでも、何故殺したらあかんのかわかっているだけ兄貴の方が僕よりマシなんや  「みんなが泣くからな、喧嘩せんなった」   暴れてもいい場所で暴れるだけにした。     リングの上だけで。  今回は喧嘩やないからええかと思ったんや。  

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