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それから3

 「言うてくれたら良かったんや。僕に殺して欲しないって。止めろやなくて・・・殺すなってお願いしたら良かったんや。ほんなら殺さんかった。理由なんてどうでもええ。お前のお願いやったら僕は何でも聴くんやで?」      僕は言う。  逆にお前が殺せというのなら、何人でも殺したる。  理由なんてどうでもええ。  お前が言うなら殺す理由も殺さん理由もどうでもええ。  「何で・・・何で?」  アイツは僕にしがみつき泣く。  何でなんかわからんお前が腹立たしい。  ほんと、腹立つ。  「お前が言うたら、僕はどんな化け物ともやりあうし、お前が言うなら、殺さんし、僕は何でもする。その理由がわからんか?・・・考えるんやな」  僕はため息をつく。  僕の恋人は怖がっている。  怯えている。  僕の恋人は僕に嫌われることを怖れている。  僕に好かれるとは考えもしないくせに。  でもそれ以上に。  怖れている。  僕に好かれることを  愛されたことがないから、愛されるのが・・・怖いのだ。  本当に好かれることが恐ろしいのだ。    だから僕から好かれていることを認めない。    「僕が怖いか?」  僕は尋ねる。   平気で人を殺せる男。  お前を本気で愛する男。  お前には僕は恐怖の対象でもあるんやろ。  アイツの身体がその言葉に震える。  だからそうなのだと思い知らされる。  でも、僕の背中に回された腕はそれでも必死で僕を抱き締めようとする。  「怖い・・・怖い。でも・・・離したない。こんな目に合わせても、お前と離れたない・・・」  アイツの声は痛々しい。  「僕を飼うてんのはお前や。最後まで面倒みるんやで」  僕は笑った。    僕にはわからん。  何にもわからん。  コイツに会うまでそんなに欲しいもんもなかった。  やりたいこともなかった。  たまにリングの上で暴れられたら良かった。  猫殺しが言っていたな。  「もう生きていたくない」  僕あの言葉の意味わかるねん。  自分を生きるためだけに調整して、修正して、生きていく、生きていくためだけに生きていく、この息苦しさ。    僕かて好きなように暴れたい。  気に入らんことがあれば殴り、暴れたい。  何で我慢しなあかんかも、わからへんのや。    苦しい。  息苦しい。  何もかもから自由になりたい。  「もう生きなくてもいい」  そう言って暴れまわる猫殺しを、全ての鎖から解き放たれた感覚を羨ましいとも思う、僕もいるんや。  いつかそうしてたかもしれん。  でも、お前にやったら縛られたい。  お前にやったら喜んで縛り付けられてやる。    コンプレックスの塊で。  ひねくれすぎてて。  嫌みで口が悪くて。  僕に何されても嫌と言えへん、僕の恋人。  僕の飼い主。  僕はお前のや。  僕はお前を食い尽くしてしまうかもしれん。  でも、僕の飼い主はお前や。  「・・・お前なんか、飼い主の手ぇ噛みまくる駄犬やないか」  アイツはそれでも言った。  愛されてることは認めんくても、飼ってることはみとめんのやね。  「飼うたる」   アイツが泣きながら言った。  「最後まで面倒見てや」  僕は笑った。  「オレのや」  そう泣きながら言われた言葉に、僕は泣いてしまった。  「お前のや」  全部全部、お前のや。  僕の全部はお前のや。  なあ、いつかは。  いつかは。  僕がお前を愛してることも、怯えんと受け入れてな?  僕はもう立ち上がれなかった。  限界だった。 結局、赤と黒に御輿みたいに担がれて僕はアイツの屋敷に帰っていた。  アイツらぬいぐるみっぽい割に力あんねん。  猛獣やからな。  人肉食うし。    赤と黒に対するアイツの態度は変わらへ  相変わらず、腹が立つほど愛しげや。  良く平然とコイツらと暮らせるな、て思うけど、まあ、僕かて人殺しやしな、まあ似たようなもんか。  「なや、はさひ!!」  「なや、らひさ!!」    交互にかけ声を掛け合いながら、御輿のノリで赤と黒は僕を担いでいく。  楽しそうやな、お前ら。  さすがに早朝になってたから、新聞配達の人とかに見られたかもしれんけど、まぁ、しゃあない。  それに・・・アイツの家は有名なのだ。  呪われた家。   そう言われている。  まあ、このあたりには珍しい高い塀に囲まれた家には化け物だらけだしね。  今更、化け物に担がれてる連れ込まれる目撃談くらい大したことやないやろ。   「なや、はさひ!!」  「なや、らひさ!!」  キャッキャッと笑いながら担がれていく。    お前ら楽しそうやな。  それを見てアイツが笑ってたから・・・もうそれでええかな。     僕はそのままアイツの家で三日三晩ねこんだのだった。  

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