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外伝 最低な恋

 その男の要求は直接的だった。  「させてくれや」  男は真顔で言った。  「はい?」  少年は何を言われたのかわからなかった。  両手にギプスをはめられていた。  治療してくれた病院は何故か看板もなかった。  医者も白衣は着てなかった。  でも入院患者はいた。  少年のようなギプスをはめたものが廊下を歩くのが見えたからだ。  ナース服を着ていない看護士が身体を綺麗にしてくれた。  精液を掻き出されあらわれ、切れた場所を消毒された。  それを優しく、おもいやりを持って、恥ずかしがらぬようにドライにしてくれた看護士は、動けなくまでヤられて連れていかれたどの病院の看護士よりも優しかった。  医者も看護士も何も聞かない。  必要な処置だけが与えられた。  「誰に」  いつも聞かれる言葉を言われないことにホッとした。  部屋は個室で、ベットこそ病院のベットだが、部屋はどう見てもアパートと言うか文化住宅の一室にしか見えなかった。  トイレと台所が共通の昔のアパートだ。       母親と昔暮らしていたような。  そう思って少年は少し泣いた。  母親とそこに住んでいた頃は幸せだったからだ。    そうやって泣いているところに、ズカズカと男が現れたのだった。  男のことは知っていた。  病院に連れてきてくれた大きな男だった。    起こったことが現実だとは今でも思えない。  でもなくなった左の3本の指と、折れた両手、そして痛む穴や身体があれが現実だと教えてくれる。  男が自分をここに連れてきてくれた。  もう一人のもっと大きな男の命令だったのだと思う。  自分を抱いてここに連れてくる途中、ずっと見つめられているのにはきづいていた。  無遠慮な、観察するような目は、でも、冷たさや軽蔑はなかったし、暴力の匂いはしなかったので安心した。  抱かれる男の腕に大人しく身体を任せた。  男は少し笑った。  子供みたいな顔をする、と思った。  甘いとも言える整った顔は、粗暴さと下品さを隠してはいなくて、でも、笑顔だけは子供のモノだった。  変なの。  少年はそう思ったのだった。    少年を病院に連れて行くと医者と何か話して男は消えたのだった。  そして今、再び現れた男は少年に土下座して頼みはじめたのだ。  「させてくれや」  二度目に言われた時には何をとは聞かなくてもわかった。  「いや、オレ男としたことないねん。してみたいねん、させてくれへん?」  男は臆面もなく言った。  堂々と土下座しながら。  「はい?」  少年はとまどった。    男としたことがないからさせろ、と言うのは初めて言われたセリフではなかった。  そう言われて、次の瞬間、押さえつけ無理やり押し込まれてきた。  義父はそれを見て笑っていた。    でも、土下座されて頼まれたのは初めてだった。  最低なことを言われているのは、最低な扱いを受けてきた少年にもわかる。  だけど、最低な割には男はクソマジメに頼んできた。  「誠心誠意で頼んでる。ケツの穴に挿れさせてくれ」  ベットの下の古びた畳に額をこすりつけ、男は言った。  着替えてきたらしく、もうその高級スーツは汚れていない。  「べ、別にオレじゃなくても」  少年は言う。  何故オレ?  化け物にレイプされて、両腕折られてるオレ?  しかも何故今?  「お前がいいんや。慣れてそうやし、なんか商売臭くない。商売って醒めるやん」  酷い言葉が飛んでくる。  少年は傷つくより先に、この男の頭のデキを疑った。  口説くにしても酷すぎる。  義父でさえ、機嫌の良い時はもう少しマトモなことが言えた。  「それにお前、可愛い」  男はにっこりと笑った。    子供の笑顔だった。  それは・・・不意打ちだったので少年は違う意味で言葉を失った。  「なっ、させて?」  甘えるように言われた。  「オレ両手折れてるし、けがしてるし・・・穴かてキレてるし・・・」  小さい声で少年は断ろうとした。  人に逆らうのは得意じゃないけど。  逆らえず、犯され続けてきた。    昨夜だって。  優しげな少年について行って・・・犯され殺されかけた。  少年が化け物だったのは・・・夢だとおもいたいけど。  「大丈夫や。無茶はせんし、試すだけやし、キレたとこやろ?ほんなら、やってる最中にさキレたんと同じやん。変わらへんて」  男の発言は最低すぎる。  だが、ニコニコ笑う笑顔は本当に無邪気で、少年はもしからしたら自分の耳がおかしくて、男は違うセリフを喋っているのかもしれない、とさえ思う。  酷い連中については良く知っている。  だけど、この男は最低だが、何か違う。  何なのかわからないけど。   「させて。挿れるだけ。無理に動かしたりせんから」   両手を合わせて拝まれた。  少年は困る。  困ってしまう。    ため息をついた。    いつも酷い目にあわされすぎてきた。  でも、今日のは違った。  あの化け物は、いつも犯される身体だけじゃなく、少年の心まで犯したのだ。  密かに思っていた「誰かに優しくされたい」という切ない願いを踏みにじったのだ。  もうどうでもいい、そう思った。  どうせ、また、酷い目にあわされるだけだ。     それを思い知るのもいいかもしれない。  「させて?」  男は甘く囁いた。  服の上からでも男が勃起しているのがわかった。  好きにしたらいい。  もう、壊してしまえばいい。    この火傷だらけの背中を見たら引くかもしれないし、酷い奴らみたいに喜んでまたこの男も焼くかもしれない。  何も感じなくなりたい。    もう壊されてしまいたい。    少年は頷いた。  完全に壊してもらうために。      

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