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Ⅰ 答えは『Yes』しか認めない②

低音の声の降ってきた方向を見上げる。 (誰?) 聞き覚えのある声のような気がする。 でも思い出せない。 秀麗な顔立ちの男の冷ややかな視線が、頭上から見下ろしている。 眼差しの先には俺がいて、男の冷たい目は胸元に移る。 「あっ」 コーヒーでびしょびしょだ。 ベージュの上質なスーツが、コーヒーの飛沫で一目で分かるほど茶色く染まっている。 (そう言えば右手の缶コーヒー、やけに軽いな) 生暖かく感じるのは、なぜだろう。 「あぁっ」 コーヒーが零れている。 じゃあ、この人のスーツに掛かったコーヒーは…… 「すみませんっ」 バジャッ お辞儀した拍子に、残りの缶コーヒーの中身も盛大にぶちまけてしまった。 「……あっ」 「……ちゃんと現実を見ようか」

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