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Ⅳ 俺はあなたを呼び捨てない⑨
「やめなさい」
ペシっ
「やめない」
ジィィー
ジッパー下ろすな。
「やめなさい」
ペシっ
「やめない」
ジィィー
「やめなさい」
ペシっ
あなたは政治ジャーナリストで、いわば芸能人にも等しい。
(『特命!Nightジャーナル』局長なんだぞ)
そのあなたが……
人前で、オナ、オナ、オナぁぁぁ~
ジィィィー
「ジッパー下ろすな」
ペシっ
「やめろォォォーッ!!」
冷静になって考えて下さい。
真川 尋。
「呼び捨てるな」
「ごめんなさい」
また俺、心の声がだだ漏れしてたか。
否。
今はそんな些事に構っている場合じゃない。
「あなたは政治ジャーナリストです。『特命!Nightジャーナル』の局長です」
「そうだ」
『そうだ』じゃない。
「あなたは何も分かってません」
あなたは、真川 尋だ。
※敬称略
「人前で………」
「なんだ?」
「だから、人前で………」
「声が小さくて聞こえない」
「だからぁ。人前で………」
「もう少し、大きな声で言ってくれ」
「オナ……」
「ん?」
「おな……に……」
「あぁ、オナニーか」
ペシっ
「痛い」
「痛くない」
頭をはたいた俺は悪くない。
テレビ局のロビーで卑猥な言葉を大声で言うな。
俺達以外、誰もいないから良かったが。
(あなたは、ほぼほぼ芸能人なんだ)
芸能人が……
(おな……に……)
……なんて恥ずかしい言葉を口にしてはいけない。
「とにかく!そういう事を人前でしたら、ジャーナリスト生命が終わりますよ!分かってるんですか」
「あぁ~」
って、分かっているのか。この人は。
本当に理解しているんだろうか。このαは。
のんびり相槌打って。
「揉み消せるから心配いらない」
………………
………………
………………
へ?
(……いま、なんつった?)
この暴君αは……
「αの特権で簡単に揉み消せるぞ」
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