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Ⅳ 俺はあなたを呼び捨てない⑬

チュウぅぅっ 涙を吸う音に、ドキンッと鼓動が鳴った。 「動くな。上手く吸えない」 耳朶を低音が這う。 ドキドキ (どうしよう) 今、なにか喋ったら口から心臓が飛び出してしまいそう。 「……そうだ。おとなしくしろ。首、少し傾げて」 こつん。 (あっ) 首を傾いだら、あなたの胸におでこがごっつんこしてしまった。 トクン……って。 今、一瞬聞こえたのは、あなたの心音…… トクン、トクン あなたは鼓動まであたたかいんだね。 あなたの胸の音、心地良い。 ドキドキするけど、とても落ち着く。ずっと聞いていたいな。ずっと、ずっと…… (だから悔しいよ) あなたはズルくて、出逢った時からズルかった。 「動くな。こうしていろ」 身をよじったら、あなたの腕が俺の頭を抱え込んだ。 トクン、トクン、トクン 鼓動が間近に聞こえる。 温もりの熱が鼓膜を穿つ。 頬が熱い。体温が上昇しているのが自分でも分かる。 (あなたは最初からズルくて……) 「……違うな。俺がこうしていたいんだ」 (今もズルい) 低くて柔らかな吐息が髪を撫でた。 ドクン、ドクン、俺の心音が熱くなる。 胸に顔をうずめる俺の表情は、あなたには見えていない筈なのに。あなたの鼓動に見透かされているみたいで。 (ほんとう……ズルい……)

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