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Ⅳ 俺はあなたを呼び捨てない⑭

「なにか言ったか」 囁く吐息に胸が鳴った。 宵闇の眼差しに見つめられている。髪の上に落ちているだろう視線にトクトク、心臓が鳴っている。 「なにも……」 うるさい鼓動に気づかれたくなくて、緩く首を振ったけど。 「ちゃんと教えろ」 口をつぐむ選択肢だってあるのに、あなたの囁く誘惑に俺は屈してしまう。 「俺をからかってるだけのくせに」 どうせ……あなたは…… 「面白い顔だって、またからかうんでしょう」 「そう思うんだったら」 ぎゅうっ 「もっと顔を押しつけて、隠していればいいだろう」 やっぱり、あなたはズルい。 余裕のないのは、俺だけだ。

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