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Ⅴ 仕事に行かないなんて言わせない④
(やっぱり、なにもない)
連絡先、聞かれなかったな。
(からかわれたんだ)
あの人はαで、テレビの人で、誰もが知る有名人で、地位もある。
俺は日々、会社と現場に走って、時々テレビ局に顔を出して、夜は遅くまでデスク作業してて。
休日のカフェでコーヒー一杯で一息つくのが楽しみな、そんな毎日を繰り返している。
ただのサラリーマンだ。
今の仕事に就いているだけでも、有難いよ。
俺は、恵まれている方だと思う。
(俺は、Ωだから)
あの人の立場からはほど遠い。
天に輝く星は、地に這う生き物の存在は見えないだろう。
それくらい。
αとΩはかけ離れているんだ。二性の立場は。
だから本気でΩに興味を持つわけないじゃないか。
普通なら、関わることのない人で。
テレビで見ていた有名人と話ができた。
(今日はちょっとだけ得したかな?)
「帰ろ!」
会社に戻ったら、やることがいっぱいだ。
気持ちを切り替えるぞ。
時間は有効に使わなくちゃな。
手の中の缶コーヒーを一気に飲み干した。
冷めた苦味が喉を滑り落ちていく。
「よし、充電完了」
コンビニで弁当買って帰ろ。
あ、でもここからなら「銀や」が近い。ちょっぴり奮発して「ぷり鮭弁当」をテイクアウトしようかな。
「うん。ぷり鮭にしよう」
さ、帰ろう。
………………
………………
………………
………………
あれ?
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ない。
ない、ない、ない!
「ないー!!」
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