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Ⅴ 仕事に行かないなんて言わせない⑩
「行こうか」
指と指が絡み合って、俺達、手を繋いでいる。
「えっと」
「デートだよ」
で、で、でー
「デートぉぉぉぉ~!!」
「ダメです」
「なぜ?」
なぜって、当然だろう。
俺は制作会社の人間で、葛城さんは取り引き先の上の人だ。
そんな二人がデートなんてしてはいけない。
だって、デートとは……
「〆はラブホのやつでしょう」
「えっ。そこまでやっていいのかい?」
「えっ?」
「えっ?」
デートって……そうじゃないのか。
(……俺、デートの経験がないから分からない)
お互い顔を見合わせて、きょとん。
なにか喋って、葛城さん!
俺、もしかしてすごく恥ずかしい勘違いしてる?
「明里君」
「はい!」
声、上ずってなかったか。名前を呼ばれて、じっと見つめられて、ドキドキする。
ドクン、ドクン
心音が悲鳴を上げる。
「好きだよ」
………………え。
好きって『好き』?
「素直でいい子で、好きだよ」
あ、そういう……
(褒めてくれたんだ)
勘違いしてしまって恥ずかしい。
「ありがとうございます」
アラサーへの褒め言葉じゃないのは分かってるけど、葛城さんに言われると悪い気しないんだよな。
葛城さんは仕事のできる人で、男の俺から見てもかっこいい。
そんな葛城さんとお昼のお誘いを頂いたのは光栄な事だ。
(でも、俺)
身分証を探さなくちゃ。
申し訳ないけれど、上手く葛城さんのお誘いをかわして……
「あの、俺」
グウゥゥゥゥ~~~
俺のお腹ァァァー!!
(なにを盛大に鳴くんだァー)
「葛城さん」
「はい」
「Ωの本能です」
「じゃ、一緒にランチに行こっか」
「………」
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