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Ⅴ 仕事に行かないなんて言わせない⑪

『じゃあ、こうしよう』 琥珀の瞳が微笑んだ。 『私達はお昼の時間を使って企画の再確認をする。ランチ兼打ち合わせだよ』 そう。これは、葛城さんからの提案だった。 「仕事に行かないなんて言わせないよ」 退路は断たれた。 身分証を探さなければならないのだけど、葛城さんとの仕事の話となれば拒絶はできない。 取り引き先の葛城さんとの会食。 断る選択肢は俺にはない。 「いい子の君は好きだよ」 長い脚を追って、低音が耳元の髪をそっと撫でた。 「おや?顔が真っ赤だね。ここは少し暖房が効きすぎているかな」 全部あなたのせいなのに、素知らぬ顔で。 困った事にこの王子αはオーラまでキラキラで責めるに責められない。 「行こうか」 そう促されてテレビ局を出た俺達は、ランチに向かった。 (これはデートじゃない。デートじゃない) 葛城さんとの会食だ。 打ち合わせ。 仕事の話 (……俺は、なにに後ろめたさを感じているのだろう) 「ついたよ」 「は、はい」 不意に降ってきた声に、返事が上ずってしまった。 気づかれていたら恥ずかしいな。 「ここ……」 「時々来るんだ。鮭がとても大きくて、塩加減もいい。お勧めは……」 「「ぷり鮭弁当!」定食!」 「あっ」 「お勧め、もう知っていたのか」 「ごめんなさい」 せっかく紹介してくれたのに、俺が先走って言ってしまったのは失礼だよな。やっぱり…… 「いや。君と好みが同じで嬉しいよ」 ふわりと微笑んだ葛城さんは王子だ。

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