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Ⅶ αの瞳には騙されない④

「鳴ってるよ」 トゥルルー、トゥルルー 「出ないのかい?」 トゥルルー、トゥルルー 「ねぇ、切れてしまうよ」 鞄の中で鳴っているのは、俺のスマホだ。 「すみません」 「構わないよ。ランチなんだから。会議中じゃない」 「ありがとうございます」 ペコリと頭を下げて、スマホを探す。 (……あれ?) これじゃない。 鳴っているのは社用携帯だと思っていたけれど。 鞄の中で着信を主張しているのは、俺の私用携帯だ。 (誰だろう?) ディスプレイに電話番号が表示されている。 登録がないから知らない番号だ。心当たりがない。 (なにかのセールスか勧誘だろうか) 内心ほっと息をつく。 もう少しで、葛城さんに本当の事を言わなきゃならない羽目になっていた。 この際、セールスでも勧誘でも何でもいい。グッドタイミングだ。 どこの誰とも知れない着信に、俺は救われている。 急用ができたから……って。 (逃げる口実ができた) この着信、利用させてもらおう。 「もしもし」 あれ?どうしたんだ。 受話口から声が聞こえない。 「もしもしー」 返事がしないぞ。 「もしもーし」 『もしもし』 良かった。やっと返事が聞こえた。 …………って。 (あれ?) 頭上。 それも背後から『もしもし』が聞こえた。どうして? 右手に持っている筈のスマホがないー★ 『もしもし』 背後の声の主だ。 俺のスマホを奪ったのは。 それも、この聞き慣れた声…… さっきまで話していた…… 葛城さん! どうして、あなたが俺のスマホで通話してるんだ?? 『もしもし』 「もしもし」 取り敢えず「もしもし」で返してみるが、通話の相手は無論俺ではない。 『君の出る幕はないよ』 不意に瞳の琥珀が凍った。 研ぎ澄まされた刃のように。 鋭く、清冽に。 『忠告はした』 なのに、口許には悠然と笑みをたたえている。 『それでも邪魔をするならば、例え君でも容赦しない』 (知り合い?) そんな、まさか。 葛城さんの知り合いが、なんで俺の電話に。あり得ない。 俺のスマホは葛城さんに奪われて、完全に掌握されている。 『それじゃ』 ツーツーツー…… 「長電話してしまった。すまないね」 琥珀の光が柔らかい。 俺にスマホを返してきた葛城さんは、いつもの葛城さんに戻っている。 「あのっ」 「間違い電話だよ」 俺の言葉を葛城さんの声が覆う。 「君のスマホに、私への間違い電話がかかってきた」 そんなの、あり得ない! 「あり得るよ」 口角が弧を描いた。 「だって、私はαだから」

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