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Ⅶ αの瞳には騙されない⑧
『恋人ごっこ』の打ち合わせが始まった。
契約条項は二つ。
「君のスマホに掛かってきたさっきの間違い電話は、着信拒否にした。出ないように」
「はい」
「それと私の番号を登録したから、出てくれると嬉しいな」
「承知いたしました」
「ダメだよ」
「えっ」
なぜ?
こつん。
指先が額を小突いた。
俺、なにか間違えたか。
葛城さんの言葉に同意しただけだ。
「私はなにか失礼を申し上げましたでしょうか」
「こら」
また額を小突かれた。
ちょっと痛い。
「君を心配している恋人の会話だよ」
「あっ」
『恋人ごっこ』は始まっていたんだ。
葛城さんから演技指導が入ってしまった。
「えっと……ありがとうございます。気をつけますね」
「ほかには?」
(う~、ほかと言われても)
「ちょっと、おでこが痛いです」
さっきから、葛城さんが小突くから。
……って、俺なに言ってるんだ。
取引先の方に失礼だろ。葛城さんは俺の演技を注意してくれたんだから。
「うん、分かった」
(……分かったって、なにが?)
琥珀の瞳が目の前にいた。
もっと近づいてきて……
もっと近づいてきたら……
(ぶつかる!)
チュッ♥
「痛くしてごめんね」
なでなで。
「痛いの、痛いの、飛んでけー」
かかか、かっ
葛城さん~~~
プシュウゥゥゥー
俺の中から別のものが飛んでった。
あ、魂だ………
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