82 / 217
Ⅷ 君には渡さない⑥
「なにがあった」
大きな手でポンポンされた頭をゆっくり起こした。
「優斗」
真川さんが俺の名前を呼ぶ。真川さんの姿を見るなり泣き出して、俺の状態が普通でない事は真川さんも気づいている。
俺は、これまでの経緯を洗いざらい話した。
ポケットの中から取り出した自分の携帯電話と、俺の渡した携帯電話を、神妙な面持ちで真川さんが見比べている。
「着信履歴の電話番号は俺だ」
だが……と。口角を曲げた。
「俺の携帯は、俺が持っている」
チィッと小さく舌打った。
「偽装だな」
険しい視線が携帯に落ちた。
「この番号は俺のものだが、電波干渉して別の電話から掛けたのだろう」
「そんなこと……」
「電波の暗号を解読すれば不可能じゃない。人にはできないがコンピューターになら可能だ」
あっ……と小さく声を上げた。
通りで身代金を要求してこないわけだ。
豊富な資金力があるからこそ可能な犯行の手口である。
(そこまでして、犯人は何をしたいんだ?)
「優斗」
「わっ」
突然、携帯を投げられて、何とか地面に携帯が着地するまでにキャッチした。
これ、俺の私物なんだけど~
(画面割ったら弁償だからなっ)
「番号を登録した」
「えっ」
「当然だろう」
「そう……なんですか」
「そうだ」
断言されると反論の余地がない。
「私用携帯以外から、俺が君に掛ける事はないから。分かったな」
登録したの、真川さんの私用なんだ……
仕事用じゃない。
「どうした?急に笑って」
「なんでもありません」
「おかしな顔だな」
「そこは『おかしな奴だ』でしょ!」
「あ、頬っぺた膨れた」
ぷにぷに
つんつん
真川さんのせいだ。
(いつもいつも『おかしな顔』って言って)
俺が怒ってるのは、真川さんのせいだからな。
でも……
(なんだか嬉しいな)
俺が笑ってしまうのも、真川さんのせい。
ぷに、つん
「あ、笑った」
怒ってたって、笑い出してしまうのも真川さんのせい。
ズルいな……
「あの……」
「なんだ?」
「俺、もう頬っぺた膨らましてないんですけど……」
「そうだな」
ぷに、つん
ぷに、つん
「なんで真川さん、突っつくんですか?」
舞い降りた瞳の宵闇に心がざわめく。
「触り心地がいいからな」
ぷに、つん
「もう少し、お前に触れさせろ」
この人は、やっぱりズルい……
ともだちにシェアしよう!