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Ⅷ 君には渡さない⑥

「なにがあった」 大きな手でポンポンされた頭をゆっくり起こした。 「優斗」 真川さんが俺の名前を呼ぶ。真川さんの姿を見るなり泣き出して、俺の状態が普通でない事は真川さんも気づいている。 俺は、これまでの経緯を洗いざらい話した。 ポケットの中から取り出した自分の携帯電話と、俺の渡した携帯電話を、神妙な面持ちで真川さんが見比べている。 「着信履歴の電話番号は俺だ」 だが……と。口角を曲げた。 「俺の携帯は、俺が持っている」 チィッと小さく舌打った。 「偽装だな」 険しい視線が携帯に落ちた。 「この番号は俺のものだが、電波干渉して別の電話から掛けたのだろう」 「そんなこと……」 「電波の暗号を解読すれば不可能じゃない。人にはできないがコンピューターになら可能だ」 あっ……と小さく声を上げた。 通りで身代金を要求してこないわけだ。 豊富な資金力があるからこそ可能な犯行の手口である。 (そこまでして、犯人は何をしたいんだ?) 「優斗」 「わっ」 突然、携帯を投げられて、何とか地面に携帯が着地するまでにキャッチした。 これ、俺の私物なんだけど~ (画面割ったら弁償だからなっ) 「番号を登録した」 「えっ」 「当然だろう」 「そう……なんですか」 「そうだ」 断言されると反論の余地がない。 「私用携帯以外から、俺が君に掛ける事はないから。分かったな」 登録したの、真川さんの私用なんだ…… 仕事用じゃない。 「どうした?急に笑って」 「なんでもありません」 「おかしな顔だな」 「そこは『おかしな奴だ』でしょ!」 「あ、頬っぺた膨れた」 ぷにぷに つんつん 真川さんのせいだ。 (いつもいつも『おかしな顔』って言って) 俺が怒ってるのは、真川さんのせいだからな。 でも…… (なんだか嬉しいな) 俺が笑ってしまうのも、真川さんのせい。 ぷに、つん 「あ、笑った」 怒ってたって、笑い出してしまうのも真川さんのせい。 ズルいな…… 「あの……」 「なんだ?」 「俺、もう頬っぺた膨らましてないんですけど……」 「そうだな」 ぷに、つん ぷに、つん 「なんで真川さん、突っつくんですか?」 舞い降りた瞳の宵闇に心がざわめく。 「触り心地がいいからな」 ぷに、つん 「もう少し、お前に触れさせろ」 この人は、やっぱりズルい……

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