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Ⅷ 君には渡さない⑦
「一人で先走ってすみません」
真川さんの無事も確認できたんだ。真川さんの時間の邪魔しちゃいけないな。
「俺、失礼しますね」
ぺこり。
頭を下げて、その場を後にする。真川さん、元気そうで良かった。相変わらず、口は悪いけど。
でも。
(なんだか久し振りに声を聞いた感じがする)
昼間も聞いたのに、変なの。
「待て」
声と同時にぎゅっと。
「そうやって、また先走る」
背後から腕を掴まれた。
「一人にできるわけないだろう」
腕を引かれて、体温に包まれた。
「危ないだろう。俺と一緒にいろ」
真川さんの腕の中。
あたたかい。
厚い胸板が俺の背中を受け止めている。
「犯行の動機も犯人の要求も分かってないんだ。勝手な判断は慎め」
言葉こそ厳しいが、声のぬくもりが優しい。
俺は、また反論の余地をなくしてしまう。
こくり、と頷く。
真川さんに向き直って「はい」と答えた。
「じゃあ、入るぞ」
「はい」
………………
………………
………………
入るって?
俺達のいる、ここ。
五ツ星帝都ホテルの正面だァァァーッ!!
「ははは入るって」
きらびやかな光の落ちる重厚な門を指差した。
「ここ?」
真川さんが頷く。
「ここ、五ツ星帝都ホテル」
真川さんが頷いた。
「だから、ホテル」
真川さんがまた頷いた。
「ホテルですよ、ホテル!」
αとΩが夜のホテルでやる事は、唯一つ。
ムギャアアァァァー!!
「ちょうどいい。少し休憩していこう」
(五ツ星帝都ホテルにもご休憩制度があるのか)
世に云うラブホには『ご休憩』なるものが存在している事を噂で聞いている。
(五ツ星帝都ホテルでご休憩……)
とんなんだろう?
泡々お風呂でフルーツ盛りを食べるとか?
ブルンブルンっ
大きくかぶりを振った。
五ツ星帝都ホテルだって、ラブホだって、αとΩが一つ屋根の下に入ればやる事は同じだ。
俺と真川さんは、今日知り合ったばかり。
ちゃんとお断りしなくては。
「俺は、そんな軽い男じゃありません」
「軽いな」
「………………え」
おかしい。
重力を感じない。……というか、重力に逆らっている。
(体が宙に……)
「浮いてるゥゥゥーッ★」
足が地面に付いてない!
「俺が抱っこしているからな」
(これは………)
αのみに許される伝説の!
お姫様抱っこォォォォーッ★★★
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