98 / 217
Ⅸ 君には渡さないpartⅡ ②
なんか……
(気まずい……)
わだかまりの壁がある。
とても居心地が悪い。
どうしよう。
意地を張ってしまった。
『俺の気持ちも考えてください』って言ってしまった。
伝えた言葉に嘘はない。けれど……
伝え方は、ああじゃない。
(少し、怒ってるよ)
俺だって。
でも、怒ってるのは少しだけ。
気持ちを考えてほしいと思ったのは、俺を知ってほしかったから。
(俺の我が儘)
嫌いな人に我が儘は言わない。
なのに。
拒絶したみたいに、言ってしまった……
少し、寂しそうな声だった。
『すまない』って。
そう答えたあなたの顔を見られなくて、目を伏せた。
真川さんの声。
あなたの声だけが、頭の中をグルグル回る。
上手く返す事ができなくて、俺は黙ってしまった。
真川さんに悪い事をしてしまった。
もう真川さんは俺に触れてこない。
「こっちだ」
真川さんに促されて会場入りする。
「しっかり、顔を上げてくれ」
「そうですね」
俺は、あなたの助手だ。失態は許されない。あなたの顔に泥は塗れない。
下を向いていては歩けない。
人にぶつからないように。
周りにも気を付けて、注意を払って……
「わあっ!」
これは、なんだ★
パンにご飯に寿司、カレー、スープにパスタ、刺身、ステーキ、ハンバーグ、サラダバー、ローストビーフ!!
瞳に飛び込んできた視界一面の料理の数々に、思わず感嘆の声が上がった。
洋食、和食、中華。色とりどりのありとあらゆる各国の料理が、ところ狭しと居並ぶ。
どれも全て五ツ星ホテルの世界トップレベルのシェフによる、最高級食材で調理された品々だ。
「勉強会が始まるまでは立食パーティーになっている」
「これ、全部食べていいんですか」
「さすがに全部は食べられないだろう」
フフっと真川さんが笑った。
この量だ。
俺、食いしん坊みたいで恥ずかしい。
「優斗はなにが食べたい?」
取り分けようとしてくれた真川さんの皿に手を伸ばしたが、ひょいっとよけられてしまった。
「君は皿が食べたいのか」
「そんなわけないでしょう!」
そうじゃなくって。
「俺は……」
「なんだ?」
「俺……だから」
「どうした?聞こえない」
この大人数が会場入りしているのだ。周囲のざわめきで、真川さんに声が届かない。
「優斗?」
言わなくちゃ。
今、言わないと。
気持ちが真川さんに届かなくなる。
「俺、許嫁だから……あなたに料理を取り分けたいです」
ともだちにシェアしよう!