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Ⅸ《おまけ+》パーフェクトリング【中編】

真川さんがいない。 どこにもいない。 俺は立っていただけだ。 なのに。 勉強会会場で迷子になった…… 迷子になる者は得てして自覚がないものである。 (ううぅぅ~) 会場がやけに広く感じる。 周囲は議員のお歴々と、その関係者。 こんな中で、俺はどうすればいいのだろう。立ち振舞いが分からないどころか、何をすればいいのかさえ分からない。 真川さんがいないと、なにもできない…… (真川さんを探さないと) でも、どうやって? 会場内をあてもなく歩いて不審者に間違われたりなんかしては、また迷惑をかけてしまう。 どうしよう。 「優斗」 「ひゃんっ」 背後の声にビクンっと体を震わせた。 「どうした?変な声を上げて」 真川さん、いたー★ 「なんでもありませんっ」 まさか、後ろから真川さんが出現するなんて。 「急にいなくなって。どこ行ってたんですか」 「職務上の挨拶まわりがあってな」 そうだった。真川さんは政治ジャーナリストだ。付き合いというものがある。 (うぅ。俺は真川さんが挨拶しているのにも気づかずに、パーフェクトリングを見つめていたのか) 「皆、お前を褒めていたぞ」 「えっ」 なんで? 挨拶にも行かずに、パーフェクトリングに見惚れていた助手だぞ。 「五ツ星帝都ホテルの料理を真剣に観察して、研究熱心だって」 俺の頭はパーフェクトリングの事でいっぱいで。 きっと真川さんがフォローしてくれたんだ。 不意に宵闇の瞳が近づいて、さわりと胸が震えた。 「君は『いい奥さんになるだろう』……って言われたよ」 なっ! (俺達は許嫁の振りをしているだけで) 真川さんは今だけ優しくしてくれる。ここへ潜り込むのに不自然にならないよう、俺を婚約者として扱ってくれているだけだ。 なのに、俺…… (なに、ドキドキしてるんだよっ)

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