102 / 217
Ⅸ《おまけ+》パーフェクトリング【中編】
真川さんがいない。
どこにもいない。
俺は立っていただけだ。
なのに。
勉強会会場で迷子になった……
迷子になる者は得てして自覚がないものである。
(ううぅぅ~)
会場がやけに広く感じる。
周囲は議員のお歴々と、その関係者。
こんな中で、俺はどうすればいいのだろう。立ち振舞いが分からないどころか、何をすればいいのかさえ分からない。
真川さんがいないと、なにもできない……
(真川さんを探さないと)
でも、どうやって?
会場内をあてもなく歩いて不審者に間違われたりなんかしては、また迷惑をかけてしまう。
どうしよう。
「優斗」
「ひゃんっ」
背後の声にビクンっと体を震わせた。
「どうした?変な声を上げて」
真川さん、いたー★
「なんでもありませんっ」
まさか、後ろから真川さんが出現するなんて。
「急にいなくなって。どこ行ってたんですか」
「職務上の挨拶まわりがあってな」
そうだった。真川さんは政治ジャーナリストだ。付き合いというものがある。
(うぅ。俺は真川さんが挨拶しているのにも気づかずに、パーフェクトリングを見つめていたのか)
「皆、お前を褒めていたぞ」
「えっ」
なんで?
挨拶にも行かずに、パーフェクトリングに見惚れていた助手だぞ。
「五ツ星帝都ホテルの料理を真剣に観察して、研究熱心だって」
俺の頭はパーフェクトリングの事でいっぱいで。
きっと真川さんがフォローしてくれたんだ。
不意に宵闇の瞳が近づいて、さわりと胸が震えた。
「君は『いい奥さんになるだろう』……って言われたよ」
なっ!
(俺達は許嫁の振りをしているだけで)
真川さんは今だけ優しくしてくれる。ここへ潜り込むのに不自然にならないよう、俺を婚約者として扱ってくれているだけだ。
なのに、俺……
(なに、ドキドキしてるんだよっ)
ともだちにシェアしよう!