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Ⅸ《おまけ+》パーフェクトリング【後編】
「今度、手料理を振る舞ってくれるか?」
声が頭上に吹いた。肩に腕を回されて、引き寄せられる。
嘘の婚約者だと思われないための……
ただの会話だよ、こんなの。
それなのに、胸のドキドキが止まらない。
「返事は?」
「難しい料理なんてできませんよ、俺……」
「カレーがいいな」
「えっ」
「定番だろ」
「……真川さん、カレー食べるんですか?」
「食べる。悪いか」
「いえっ」
少し不機嫌な色に変わった宵闇の瞳。
「なんかこう、俺の知らない高級なもの食べてそうで。カタカナだらけの」
「なんだ、それは」
「ですから。俺にも分からない高級なカタカナだらけのものです!」
プっと真川さんが吹き出した。
俺、変なこと言った?
「カレーが食べたい。じゃがいもの入ったやつだ」
……普通のカレーだ。
「トマトは?」
「絶対入れるな」
「やっぱり真川さん、トマトが……」
「じゃがいもと玉ねぎとにんじんと牛肉だけでいい」
プっ
俺も吹き出してしまう。絶対認めないな、真川さん。
「分かりました。それで作ってみますね」
「あぁ、楽しみにしてるよ」
なんだか、ほんとうに付き合ってる恋人同士の会話みたい。
俺も騙されてしまいそう。
「わぁっ」
突然手を引かれた。
「なにするんですかっ」
……って★
真川さん……
「手に持ってるのは……」
「エンゲージリングにしては大きすぎたな」
「それ、パーフェクトリング!!」
つか!
ドーナツを指輪にするなんて、俺の指、どれだけ太いと思われてるんだ!?
「君が物欲しそうに見ていたから」
「それはっ」
もしかして、真川さん。俺に気を遣ってくれてる?
(俺のこと、ずっと見ていてくれたんだ)
「君がほしいのはドーナツ、それともエンゲージリング。どっちだ」
パーフェクトリングは食べたい。
でも……
(あなたは俺に、一体どんな答えを期待してるの?)
「わわ、はむはむはむん★」
真川さんによってちぎられたパーフェクトリング(プレーン)の味が、口の中いっぱいに広がった。
「今度、カレーを作ってもらった時に聞かせてもらうよ」
絶対に美味しい筈のパーフェクトリングが……
ドキンドキンッ
胸の鼓動のせい。
いいや!
(真川さんのせい!)
待ちに待った夢のパーフェクトリングが~~
(全然、味が分からない)
やっぱり真川さんは意地悪だ。
《おしまい》
本編はまだまだつづくよ♪
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