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Ⅸ 君には渡さないpartⅡ ④
「始まるぞ」
真川さんに促されて着席した。
「すみません。落ち着かなくて」
こういう場は慣れない。隣同士で談笑する議員の先生の笑顔には、独特の牽制があるのを感じてしまう。
(真川さんが『戦場』だと言っていた)
「社会見学だと思って見ているといい。滅多に参加できないぞ」
ごく平凡な一般Ωの俺からすれば、確かにそうなのだが。
「緊張します」
「だろうな。静かな権力闘争の場だ」
全生物の頂点に立つ稀少種αが一堂に介し、ここではその誰もが冷たいオーラを放っている。
「Ωの君にはきついだろう。だが、暫く耐えてくれ」
「はい」
真川さんが頷いた。
俺を信頼してくれている。
そんな思いを注いでくれる瞳に、俺は心底安堵する。
(嬉しいと思う)
俺なんて、αのあなたから見たらまだまだ全然頼りない。
でも。
(少しでも、あなたの近くであなたの力になれるのなら嬉しいな)
今は無理でも、これから少しずつ……
ぷに。
「ひゃっ」
「集中」
真川さんが指で頬っぺた突っついてくる。
「気合いを入れろ。せめて顔だけでも」
「ひどいです!俺、そんなにぼーっとしてましたか」
「少なくとも、俺が構いたくなるくらいにはな」
つまり、ほんとにどうしようもなく間抜け面だったと~
「ちょっ、真川さん。ぐにぐに痛いですっ」
「膨れる君が悪い。つつきたくなる」
「そんな!真川さんが変なこと言うから」
「本当のことを言っただけだ」
この人、ほんとうに口が悪い!
「君の面白い顔を誰にも見せたくない」
不意に吐息が髪を掻き分けて流れた。
耳のひだにそっとそよぐ。
「君の面白い顔は可愛いから」
つん……
指先が頬を撫でる。
「だから君は気合いを入れて、よそ行きの顔をしていろ」
この人、ほんとうにズルい。
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