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Ⅸ 君には渡さないpartⅡ ⑨
俺の抑制剤が、男の手に渡っている。
いつ、取られた?
最初の接触。
腕を引っ張っられた時。
既に抜き取られていた?
「俺の薬です。返してください」
いつの間にか、男はファイルも持っている。
俺への態度が急変したのは、あのファイルに記された資料のせいか。
(あっ)
チラリと見えた。
(俺の身分証!)
ファイルの隙間に、テレビ局でなくした身分証が挟まれている。
(身分証は奪われていた)
『真川を預かった』
そう騙った狂言の誘拐は仕組まれていた。
(電話は、俺をこの場所におびきだす罠だった)
なんで俺なんかを狙うんだ。
俺はΩだ。
αみたいな地位も財産もない。
「いい余興になります」
指先に摘まんだカプセルを男は弾いた。
音もなく、カプセルが床に転がった。
床に落ちた物を拾うなんて屈辱だが、今はそんな事を言ってちゃダメだ。
(薬がないと)
真川さんに迷惑を掛ける。
拾わなければ。
拾って飲まなければ……
「やはりΩは地べたが似合う」
膝をつき、熱で火照った体を床に這わせる。薬まで、もう少し……あともう少し、手を伸ばせば。
俺の姿に心ない罵声が浴びせられるが、気にしてはいけない。
気にするな……
「優斗ッ」
(ごめんなさい)
あなたの言葉でも、聞くわけにはいきません。
(俺には必要だから)
あの薬が。
あの薬を、どうしても飲まなければいけないんです。
俺の薬……
もう少しで指先が触れる瞬間、革靴が視界を遮る。行く手を警備員が阻む。
カプセルが、指の隙間を擦り抜けていく。
抑制剤は無情にも別の男に拾われて、ゴミ箱に捨てられてしまった。
「あなたは発情したままでいてください。Ωにはお似合いだ。所詮、獣でしょう。もうすぐ本能のまま、雄を漁 るようになりますよ」
心臓が痛い。
左胸を穿ってクラクラする。
飲まれてしまう。
(本能に)
「優斗、立つんだ」
パシンッ
差し伸べられた手を、俺は振り払った。
あなたの顔は見られない。
悲しい目をしている。きっと……
傷つけたのは、俺だ。
裏切ったのは、俺だ。
俺の体は、フェロモン濃度が上昇している。
αのあなたは、近づかないで……
Ωのフェロモンは、発情を誘発し交尾を促す強い媚薬だ。
あなたまで本能に飲まれてしまったら。
あなたを守りたい。
あなたを傷つけてでも。
あなたを裏切ってでも。
あなたを守りたいから、どうかΩの俺には近づかないでください……
「いい光景ですよ。あぁ、そうだ。このまま、オナニーしてみてはどうですか」
司会の男の冷たい声が飛ぶ。
「発情して苦しいでしょう。仰向けになって脚を開いて……そう、大股開きですよ。テントを張って硬く反り返った、股の間のいかがわしい突起物、取り出したいですよね?」
ハアハァハァハァ
ハァハアハアハァ
体が理性を失っていく。
「我々αに見せつけなさい。卑猥な汁で濡れそぼった、雄もどきの肉棒を」
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