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Ⅸ君には渡さないpartⅡ ⑰
「明里優斗様の情報は取得しています。現在29歳。来年で30歳になりますね。これがどういう事なのか……あなたになら分かるでしょう」
視線の冷たさに、背筋にぞっと寒気が走った。
「政治ジャーナリスト・真川尋ならば、特に」
真川さんの眉間に苦渋の皺が刻まれる。
「強制婚姻か」
「繁殖はΩの義務です。強制などという表現は相応しくありません」
「やっている事は同じだろう。Ωの意志は関係なく、番になるのだからな」
「Ωとしての国民の義務を遂行できるよう、我々αが手を差し伸べているだけだというのに。これは法律に基づいた行為です」
「その法律がΩを守っていない」
「政治批判はやめて頂きたい。あなた方ジャーナリストがそうやって国民を扇動するから、正しい国家の有り様が停滞するのです」
「αにだけ都合のいい国家の間違いだろう」
「話になりませんね」
見下す視線が俺に降ってきた。
「では、あなたに尋ねます。この世界に、Ωのための国家が存在するとお思いですか」
俺は……
「答えてください」
俺には……
「答えられませんか?」
俺の知る限り、この地球……
「答えられないのが、あなたの答え」
どこにも……
ない。
「ありえないんですよ」
冷たい声が降る。
「あなたのようなΩの権利を尊重する国は存在しない。答えないのが答えなら、認めますね。Ωの、あなたの権利は誰も守らない。あなたに権利はない。国家に守られたいなら、あなたは権利の主張を放棄するしかない。それが唯一、国家の中でΩが生きる方法です」
Ωに人権は認められていない。
日本だけじゃない。どの国でも、この地球上に存在する国は全部。
「SSFC-02(second sexual freedom with compliance-02=第二性の自由を守るための規定・改訂版二項条約)に調印している国は、国家として、国家を主導するαはΩの自由を守る権利が生じる」
「あなたには聞いていません」
「また、このSSFC-02に批准しない国家は、国際法上、国家として認められない」
「あなたには聞いていないと言っているでしょう」
「つまり、国家は国家同士協力して、国家間でΩの自由と権利を尊重し、Ωを守る義務がある」
「真川さん!」
「私の助手の答えは正しいですよ。国家として、Ωの人権を守るのではない。国家を超えて守るべきものであるのだから、Ωを守る国家は存在しない」
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