118 / 217

Ⅸ君には渡さないpartⅡ ⑱

 あなたの声は不思議だ。  透き通って、心の奥まで届くんだ。  凛として。  心の底を照らしてくれる。  あなたの声は、沈んだ心の底にいて一人ぼっちの俺に手を差し伸べてくれる。 (以前にも、こんなこと?)  懐かしい気持ちが溢れてくるのは、どうしてだろう。  思い出したいのに、思い出せない。俺の記憶の中に住んでいる誰かに、あなたは似ている。   ハァハァハァハァ  理性が本能に侵食される。  ハァハアハアハァ  理性に限界が迫る。 「詭弁(きべん)ですよ」  声の闇が俺を暗く染めていく。 「真川さん、あなたの主張は受け入れられるものではない」 「詭弁を語ったつもりはありません。しかしながら、現実からは程遠い理想論である事も否めません」  しかし。 「理想を失った政治は、権力者の傀儡(かいらい)です」  声はどこまでも追いかけてきて、俺の心の奥底まで降りて来て、俺に輝きを差し伸べてくれるんだ。 「ジャーナリストという生き物は、どれだけ我々政治家を愚弄(ぐろう)すれば気が済むんでしようね」  批難をぶつける言葉から苛立ちを押さえられない。 「賢明な政治家ならば言葉の真意が見える筈です」 「真川さん。あなたにはジャーナリストである以前に、αとしての自覚が欠けているようだ。こんな舌戦は無意味です」 「嘆かわしいですね」 「あなたの論評など必要ありません」  男が手を上げると同時に、黒服達が間合いを詰める。 「手荒な真似はしたくありません。これが最終警告です」 「あなたは綾瀬(あやせ)先生の第一秘書でしたね。見たところ、この会合に綾瀬先生はいらっしゃらないようだ。あなたがここにいるのは、綾瀬先生の指示ですか。それとも無断での出席ですか」 「関係ないでしょう」 「この件は綾瀬先生に報告させて頂きます」 「あなたもくどいですね。何の悪あがきですか」 「私の婚約者であるΩは発情している。これを放置し、病院に送る義務を怠った。Ωの医療を受ける権利を阻害する行為です。政治家及び政治に携わる人間ならば遵守すべき、公職法立案第26条3項に抵触します」 「法の解釈は如何様にもなる。そんな事を報告してどうするんです」 「綾瀬先生は高潔な方です。あなたが火消しに走るとするならば、綾瀬先生を頼るのではなく、この会合のバックにいる大物政治家ではないですか。あなたと大物政治家との繋がりが露見した時、綾瀬先生は何をお考えになられるでしょう」 「その口を今すぐ閉じなさい」 「綾瀬先生に無断で会合に出席し取り仕切るのは、大物政治家との強力なパイプを繋いで、綾瀬先生の地盤を崩すためですか」  グラリ  男の拳が震えた。 「秘書のあなたが綾瀬先生を突き落として、将来、綾瀬先生の後継者を偽り立候補する下準備ですか」  フッ……と口角が揺れた。 「下衆(ゲス)いですね」 「真川ァァァアーッ!!」  憤怒の叫びが轟く。 「どけ!お前達ッ。真川!今すぐ、お前を引き摺り出してやる」  黒服達を押し退け、男が真川さんに掴み掛かった。  しかし。 「邪魔だ」  その手を掴み返して、足払いを食らわせた。  一瞬の出来事だった。  声を上げる間さえも与えず。  ドンッ  ……と鈍い音が盛大に響き、仰向け様に男が倒れた。 「失せろ」  みぞおちに一発。  真川さんの拳が落ちた。 「お前の言う通りだ。お前如きに舌戦は無意味だ」  宵闇の視線が静謐に降る。

ともだちにシェアしよう!