119 / 217
Ⅸ君には渡さないpartⅡ ⑲
「立てるか」
真川さんの腕が、俺を引っ張り上げる。
「辛いだろうが、我慢してくれ」
司会の男が倒れ、指示系統が混乱している今しかない。
「行くぞ」
「はい」
この混乱に乗じて会場を脱出する。重い足を引き摺って歩を進める。
前に進まなきゃ。
ハァハァハァ
一歩、足を進めるだけで息が上がる。でも、発情で体が辛いのを言い訳にはできない。
真川さんが体を張って作ってくれた、脱出の隙。
(絶対、無駄にしたくない)
「優斗」
不意の声が鼓膜を震わせた。
「ここを出たら、ホテルに行くぞ」
(真川さん)
「発情期は病気ではないから、救急搬送できない。急患でない君は、病院に行っても診察待ちになる。そこまで君の理性が持つか」
声が耳朶に沿って耳打ちした。
「発情した体をおさめる方法は、君も分かっているだろう」
体が熱い。
真川さんに触れられている場所……
歩みを助けるために俺を支えてくれているあなた腕。たったそれだけで、あなたを意識してしまう。
「嫌か」
声が低くくすぐる。
答えられないのは、俺の体がいうことをきかないせいだ。
「君は本位でないだろうが、俺以外の雄が君を抱くのは嫌だ」
声が真摯に俺を包む。
「君を抱かせろ」
荒い呼吸の中で、あなたの名前を刻む。
真川さん……
刹那。
ブォォーブォォーブォォーッ
サイレンが鳴り響く。
グァシャアァァーンッ
けたたましい金属の響鳴が轟いた。
「逃がさねぇよ」
司会の男が這い上がる。壁伝いに手をついて拳を振り上げた。
右拳が壁のブザーを押した。
「おい、お前達は籠の中の鳥だ」
ともだちにシェアしよう!