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Ⅸ君には渡さないpartⅡ ⑳
もう少しで。
あともう少しで、脱出できたのに。
俺達を嘲るかのように。
ガシャアァァーンッ!
天井から下りてきた鋼鉄のシャッターが視界を閉ざした。
「驚くなよ。Ωを管理するのは、αの義務だ」
壁に寄りかかって、男が口角を歪めた。
「俺達αは上位種なんだよ。無能なΩの浅はかな考えが通用するわけねぇーだろ。賢明なα様が、逃走対策の準備を怠っているとでも思っていたか?アア?」
防壁は開かない。
この重厚なシャッターを手動で開けるのは、例えどんな剛力の持ち主だって無理だ。
「さぁ、『夜の帳』の続きといこうじゃねぇか」
歪んだ笑みが吊り上げる。
「あぁ、そうだ。発情してるんだったな。せっかくだからお味見してやるよ」
ナッ……
(なに言ってるんだ、こいつ)
「雄が欲しいだろ。疼くんだろ」
(まさか)
「可愛いお尻の窄 まりに、大好きなデカイ肉棒突っ込んでやる」
(発情している)
Ωの発情フェロモンは、周囲にいるα・βを発情させて交尾を促す。
俺のフェロモンが男を発情させている。
でも、真川さんは平気だ。
(真川さんは影響を受けていないのに)
「輪姦 してやるよ、お前もたくさん雄を楽しめて嬉しいだろう。お気に入りの雄棒見つかるかもな?色目を使えば、お前の体、高く買ってもらえるかも知れねーぞ」
周りの空気がおかしい。
欲情の視線が舐めるように、俺を囲んでいる。
αが発情している。
この会場のα全員、欲情している。
「何回イカせて欲しい?よがり狂えよ、淫乱Ω」
引きちぎるように、男が自らのスーツのシャツをはだけた。
「どうした?脱げよ。αが脱いだんだ。Ωも脱ぐのが礼儀だろう」
その手が俺に伸びる。
「脱げないなら、俺が脱がしてやろうか」
嫌だ。
こんな奴に触られたくない。
怖い。
(真川さん!)
もしも、真川さんも……
Ωフェロモンの影響を受けていたら……
本能に飲まれまいと、真川さんが発情を理性で必死に抑え込んでいるのだとしたら。
(俺が真川さんに触れれば、苦しませてしまう)
本能に理性で抗う真川さんを、もうこれ以上苦しめたくない。
「こっちだ!」
声は意識を目醒めさせる。
「君は、握る手が誰かも忘れたのか」
あなたは迷いがない。
いつも。
いつでも、どんな時も。
俺の意識を呼び醒ましてくれる。
俺が握りたいのは……
(あなたの手)
「Ωが!貴様に選択肢があると思うな」
腕が届かない。
背後からの強引な力に引き戻される。
伸ばすけど、伸ばすけど。
この手は、もう……
「αは頂点に君臨する上位種だ。αが全てを決定する。お前達に権利があると思うな。βもΩも地ベタを這いずり跪いていればいい。生かされているだけ有難いと思え」
真川さんに、手が届かない。
もう、この手は……
バシュウンッ
俺達の間を割って、何かが勢いよく飛んできた。
ガゴン
男が……倒れている。
男の頭を直撃したのは……
モップゥゥゥー★
この豪奢な会場にはまるで似つかわしくない、くたびれたモップが、どこからともなく飛翔して男の顔面にクリティカルヒットしたァァァー!!
「あ」
ふわり……
「掃除しようとしたら、モップが飛んでってしまいました」
ふわふわ。緊張感も緊迫感も台無しにする声は……
「ドジっ子ですいません」
てへ♪
右手のグーで頭をコツン★
勧修寺先生ェェェー!!!
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