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Ⅹ君には渡さないpartⅢ ②

 勧修寺先生は嘘をついている。 (ほんとうの勧修寺先生は……)  ドジっ子なんかじゃない!  ゾクリと背筋に冷たいものが走った。笑顔の仮面の下で光る夜の闇を灯す目は、本気で黒服達を潰しにかかっている。  ヒっ……と黒服の一人が息を飲む声が聞こえた。 「おや?剥いた牙を引っ込めるなんて、今更言いませんよね」 「お、俺……私達はβだ。あなたのようなαにかなう筈がない」 「そうだ。私達βは常にαに従う。今のは少し魔が差したんだ」 「αのあなたがβ如きに本気になるなんて、人が悪い」 「君達は頭が悪いな。仕掛けてきたのは、そちらだろう」 「そうじゃない。誤解だ」 「これはαとβの戦争だ。矛のおさめ方も分からないのか」 「戦争だなんて大袈裟な」  夜の闇をまとう双眼が振り向く。 「低俗なβと和平を結ぶ気はない」  見返った視線が、刃物のように喉笛を裂いた。 「交渉は決裂です」  グッと黒服が唇を噛んだ。 (勧修寺先生)  これ以上、彼らを刺激しては……  踏み出した歩を制するように、俺の肩にあなたはそっと手を置いた。 「真川さん……勧修寺先生は……」  あの人は。 「一体なにに怒ってるんですか」  俺を助けてくれたんじゃない。 (違和感が拭えないんだ)  俺を助けてくれただけじゃ、あんな行動しない。  あんな事を言わない。  あの人は、もっと別次元の……  俺も。目の前にいるβも見ていない。 (もっと別のなにかに怒っている)  そんな気がするんだ…… 「明里君。私は何も怒ってませんよ」  聞こえてた★ 「ごめんなさい!」 「謝罪は必要ありません。そんな事よりも……」  夜の闇の気配が色濃く翻った。  空気が変わった。 (勧修寺先生の雰囲気が違う) 「そのモップ、取ってくれませんか。今、とっても掃除をしたい気分なので」

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