122 / 217
Ⅹ君には渡さないpartⅢ ②
勧修寺先生は嘘をついている。
(ほんとうの勧修寺先生は……)
ドジっ子なんかじゃない!
ゾクリと背筋に冷たいものが走った。笑顔の仮面の下で光る夜の闇を灯す目は、本気で黒服達を潰しにかかっている。
ヒっ……と黒服の一人が息を飲む声が聞こえた。
「おや?剥いた牙を引っ込めるなんて、今更言いませんよね」
「お、俺……私達はβだ。あなたのようなαにかなう筈がない」
「そうだ。私達βは常にαに従う。今のは少し魔が差したんだ」
「αのあなたがβ如きに本気になるなんて、人が悪い」
「君達は頭が悪いな。仕掛けてきたのは、そちらだろう」
「そうじゃない。誤解だ」
「これはαとβの戦争だ。矛のおさめ方も分からないのか」
「戦争だなんて大袈裟な」
夜の闇をまとう双眼が振り向く。
「低俗なβと和平を結ぶ気はない」
見返った視線が、刃物のように喉笛を裂いた。
「交渉は決裂です」
グッと黒服が唇を噛んだ。
(勧修寺先生)
これ以上、彼らを刺激しては……
踏み出した歩を制するように、俺の肩にあなたはそっと手を置いた。
「真川さん……勧修寺先生は……」
あの人は。
「一体なにに怒ってるんですか」
俺を助けてくれたんじゃない。
(違和感が拭えないんだ)
俺を助けてくれただけじゃ、あんな行動しない。
あんな事を言わない。
あの人は、もっと別次元の……
俺も。目の前にいるβも見ていない。
(もっと別のなにかに怒っている)
そんな気がするんだ……
「明里君。私は何も怒ってませんよ」
聞こえてた★
「ごめんなさい!」
「謝罪は必要ありません。そんな事よりも……」
夜の闇の気配が色濃く翻った。
空気が変わった。
(勧修寺先生の雰囲気が違う)
「そのモップ、取ってくれませんか。今、とっても掃除をしたい気分なので」
ともだちにシェアしよう!