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Ⅹ君には渡さないpartⅢ ⑪
「先生」
ヒュン、と空気が鳴った。
「さっさと掃除、済ませてください」
飛んできたモップをパシッと勧修寺先生が受け止めた。
「いいんですか!」
真川さんを見返してしまう。苦労して勧修寺先生から取り上げた武器なのに。
「大丈夫だよ」
「おやおや、私も随分見くびられたものですね」
モップを愛しそうに眺めて、先生が口角を上げた。
「君達の仲間になった覚えはありません」
ガッ
モップを床に突き立てる。
「君達を掃除しますよ」
「ぐへ」
「……真川さん。空気読んでください」
緊迫の場面で。
「『ぐへ』はないです」
「……俺じゃない」
「……あっ」
先生、またやっちゃった……
モップを突き下ろしたそこ、床じゃなくて司会の人です。
「そんな所で寝ていると危ないって言ったのに」
勧修寺先生が左足で踏んでるから、起き上がれないんです。
ドジっ子発動してますよー
「勧修寺先生、あなたに味方になって欲しいとは思いません」
「それは、私に対する戦線布告でしょうか。真川さん」
「どのようにとって頂いても構いません。しかし」
宵闇の双眼が強い意志で見据える。
「今は共闘戦線を張った方が得策です」
周囲を見渡した視線の先。
どこかしこにもいる。いる。いる。
α、α、α!!
真川さんが俺を抱き寄せた。
「そんな顔をするな。俺がいるだろ」
囁かれた声に不思議と恐怖が消えていく。
「塵芥が増えましたね」
あるαは「Ωだ……Ωだ」と虚ろな目で呟き、あるαは欲をたぎらせた目で瞬きもせずに俺を見つめている。上着を脱ぎ捨てるαもいる。
俺のΩフェロモンで会場のα達が発情している。
真川さんの腕が強く俺を包み込んだ。
大丈夫。押し寄せる不安は真川さんの温もりが溶かしてくれる。
しかし、このままでは、俺達は不利な状況に追い込まれる。
「確かに、私は塵芥が嫌いです。理性を失い、本能に流されるαは塵芥も同然だ」
フンと勧修寺先生が鼻を鳴らした。
「君はそのΩを守りたい。私は塵芥どもの争乱に巻き込まれるのは御免被る」
つまりは……
「不本意ですが、互いの目的と利益のために手を組むしかありませんね」
「先生、ありがとうございます」
「保障はしませんよ。だが算段はあります」
少しだけ、先生の目が柔らかく光った。
「どうするんですか」
「君は掃除前にまず、なにをしますか?」
掃除の前……
ええっと、ええっと……
「窓を開ける!」
「そう、換気です!」
勧修寺先生が頭上高くモップを振り上げた。
「……君達の主の身柄は保護した」
主って……
床の上で、先生に踏まれている司会の人?
イーグルアイが強く輝き、彼らを見下ろす。
「我、勧修寺敬進が命じる。黒服どもよ、我に従え」
ザッ
一糸乱れぬ靴音が鳴る。
「Yes , your Majesty !」
黒服達が一斉に跪いた。
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