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Ⅹ《おまけ+》【前編】oho

「だいじょうぶか……俺がわかるか?」  きこえているか……  ゆうと……ゆうと……優斗!  瞼の奥、宵闇の光が射し込んだ。 「……さながわ、さん?」 「そうだ。俺だ」  体、真川さんの両腕に抱きしめられている…… (俺、気を失って)  床に激突しなかったのは、真川さんが受け止めてくれたからだ。 「すみません」 「君は悪くない」  大きな手がぽんぽん、と。優しく背中を叩いてくれた。 「俺が調子に乗り過ぎた。すまない」 「あっ」  当たっている。 (真川さんの)  硬くなってる…… 「少し我慢してくれるか。嫌だろうが、密着していないと君を落としてしまう。まだ君も体に力が入らないだろう」  正直、自力で立てそうにない。 「すみません」 「謝るな。悪いのは俺だ」 「ちがっ」  きゅっと、スーツの袖を掴んだ。  そんな事をしなくても真川さんはどこにも行かない。でも…… 「違います。真川さんは悪くありません。俺、真川さんの事、悪いって思ってませんよ。なにも責めてませんから」  それに…… 「嫌じゃ……ないです……」 「えっ」  弾かれたように、宵闇の瞳が見開いた。 「真川さんの……当たってても大丈夫です」 「君……」  声に温もりが灯る。 「あまり俺を調子づかせないでくれ」 「そんなつもりは……」 「なら煽り文句だ。雄なら皆そう思う」  調子を狂わされているのは俺の方で。  ドキンドキン  胸の鼓動がおさまらない。  優しい腕に抱かれているのに、ムズムズする。 (俺の気持ち)  どこに預ければいいのだろう。 「ごめんな。もう少しの辛抱だから、暫くこの体勢でいてくれ」  頷いたけれど、どんな言葉で応えたらいいんだろう。  気の利いた返事が思いつかない。 「気になる……よな」 「はい。いいえっ」  場所が場所だけに。頷くのが正しいのか、首を振るのが正しいのかも分からない。 「半勃ちだから、もう少しで落ち着く筈だ」  うそ。これで半勃ち★ 「すまない」 「あのっ、そんな意味じゃっ」  しまった。  顔に出てしまった。 「このサイズで半勃ちなんて、ちょっとビックリしました」  俺のと全然ちがう。 「おっきくて」  ……って!なに言ってるんだ、俺。  なのに。  どうした事か。真川さんがほっと安堵の息をついた。 「てっきり俺では満足できないのかと思ったよ」 「ナァッ★」  なに言ってるんだ!この人!  自覚あるのか。  このサイズは十分大きい。  ほかの人のは見た事ないけど、見た事のない俺でも分かるくらいの。  きょ、きょきょきょ……きょォォ〜 「巨根」 「それ!」  しまった。  また顔に出てしまった。  とにかく★ 「真川さんは十分きょ……」 「巨根」 「……です」  これ以上のサイズを求めていると思われている俺って、なんだ? 「面白い顔になってる」 「ひどいです」  一生懸命、弁明しているのに。  一生懸命、頭を回転させてるのに。 「あなたにいつも、からかわれてばっかりだ」  仮初めでも婚約者になれたら、少しはあなたに近づけると思ったのに。 (翻弄されるのは俺ばかりで……)  いつも余裕なあなたはズルくて、こんな関係、絶対ズルい。  それなのに。  俺は、あなたとの関係を楽しいって思ってるんです。 (こんな気持ちでいるのは俺だけなんて、胸が苦しい)   ドキドキ穿つ鼓動が呼吸を締めつける。 「君の色んな表情が俺を安心させてくれる。俺には、君のように色々な顔ができないから。君が、俺のそばで様々な顔になってくれると嬉しくて笑ってしまうんだ」  わさっと大きな手が降りてきて、俺の髪の毛をぐしゃぐしゃかき混ぜる。 「わっ!俺、犬じゃありませんっ」  キャ。  髪の毛をくしゃくしゃ、手を止めてくれない。 「今、君は俺の手の中でどんな顔をしているのかな?想像すると楽しいよ」  この人は、世界一ズルいαだ。 「もう絶対、面白い顔なんてしませんから」  ほんとは、真川さん……  あなたが笑ってくれると、俺も嬉しいよ。  だけどあなたはズルい人だから、ほんとのことは言ってあげないんだ。 (でも、この気持ち……)  伝わってたら嬉しいな。

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