145 / 217
Ⅹ《おまけ+》【前編】oho
「だいじょうぶか……俺がわかるか?」
きこえているか……
ゆうと……ゆうと……優斗!
瞼の奥、宵闇の光が射し込んだ。
「……さながわ、さん?」
「そうだ。俺だ」
体、真川さんの両腕に抱きしめられている……
(俺、気を失って)
床に激突しなかったのは、真川さんが受け止めてくれたからだ。
「すみません」
「君は悪くない」
大きな手がぽんぽん、と。優しく背中を叩いてくれた。
「俺が調子に乗り過ぎた。すまない」
「あっ」
当たっている。
(真川さんの)
硬くなってる……
「少し我慢してくれるか。嫌だろうが、密着していないと君を落としてしまう。まだ君も体に力が入らないだろう」
正直、自力で立てそうにない。
「すみません」
「謝るな。悪いのは俺だ」
「ちがっ」
きゅっと、スーツの袖を掴んだ。
そんな事をしなくても真川さんはどこにも行かない。でも……
「違います。真川さんは悪くありません。俺、真川さんの事、悪いって思ってませんよ。なにも責めてませんから」
それに……
「嫌じゃ……ないです……」
「えっ」
弾かれたように、宵闇の瞳が見開いた。
「真川さんの……当たってても大丈夫です」
「君……」
声に温もりが灯る。
「あまり俺を調子づかせないでくれ」
「そんなつもりは……」
「なら煽り文句だ。雄なら皆そう思う」
調子を狂わされているのは俺の方で。
ドキンドキン
胸の鼓動がおさまらない。
優しい腕に抱かれているのに、ムズムズする。
(俺の気持ち)
どこに預ければいいのだろう。
「ごめんな。もう少しの辛抱だから、暫くこの体勢でいてくれ」
頷いたけれど、どんな言葉で応えたらいいんだろう。
気の利いた返事が思いつかない。
「気になる……よな」
「はい。いいえっ」
場所が場所だけに。頷くのが正しいのか、首を振るのが正しいのかも分からない。
「半勃ちだから、もう少しで落ち着く筈だ」
うそ。これで半勃ち★
「すまない」
「あのっ、そんな意味じゃっ」
しまった。
顔に出てしまった。
「このサイズで半勃ちなんて、ちょっとビックリしました」
俺のと全然ちがう。
「おっきくて」
……って!なに言ってるんだ、俺。
なのに。
どうした事か。真川さんがほっと安堵の息をついた。
「てっきり俺では満足できないのかと思ったよ」
「ナァッ★」
なに言ってるんだ!この人!
自覚あるのか。
このサイズは十分大きい。
ほかの人のは見た事ないけど、見た事のない俺でも分かるくらいの。
きょ、きょきょきょ……きょォォ〜
「巨根」
「それ!」
しまった。
また顔に出てしまった。
とにかく★
「真川さんは十分きょ……」
「巨根」
「……です」
これ以上のサイズを求めていると思われている俺って、なんだ?
「面白い顔になってる」
「ひどいです」
一生懸命、弁明しているのに。
一生懸命、頭を回転させてるのに。
「あなたにいつも、からかわれてばっかりだ」
仮初めでも婚約者になれたら、少しはあなたに近づけると思ったのに。
(翻弄されるのは俺ばかりで……)
いつも余裕なあなたはズルくて、こんな関係、絶対ズルい。
それなのに。
俺は、あなたとの関係を楽しいって思ってるんです。
(こんな気持ちでいるのは俺だけなんて、胸が苦しい)
ドキドキ穿つ鼓動が呼吸を締めつける。
「君の色んな表情が俺を安心させてくれる。俺には、君のように色々な顔ができないから。君が、俺のそばで様々な顔になってくれると嬉しくて笑ってしまうんだ」
わさっと大きな手が降りてきて、俺の髪の毛をぐしゃぐしゃかき混ぜる。
「わっ!俺、犬じゃありませんっ」
キャ。
髪の毛をくしゃくしゃ、手を止めてくれない。
「今、君は俺の手の中でどんな顔をしているのかな?想像すると楽しいよ」
この人は、世界一ズルいαだ。
「もう絶対、面白い顔なんてしませんから」
ほんとは、真川さん……
あなたが笑ってくれると、俺も嬉しいよ。
だけどあなたはズルい人だから、ほんとのことは言ってあげないんだ。
(でも、この気持ち……)
伝わってたら嬉しいな。
ともだちにシェアしよう!