148 / 217

Ⅹ《おまけ+》【前編】oho!

 触れる。  降りてくる唇。 (触れられる)  唇が、唇に。  瞼を閉じる事もできなかった。イーグルアイが滑空する。獲物をさらう研ぎ澄まされた双眼から逃れられない。 (勧修寺先生にキス……) 「しませんよ」  低く耳元を穿った声。 「抵抗しない獲物に興味はないんです」  唇が髪に口づけた。 「私に奪われたかったら、抗ってみせてください」  抵抗を…… 「ひねり潰すのが私の趣味です」  鷹の眼が柔らかに微笑んだ。 「君の面白い顔が見られたので、今回は及第点をあげましょう」 「そんなものは返却だ」 「わっ」  強い力に抱きすくめられた。 「俺の優斗に勝手にものを与えるな」 (『俺の優斗』……って言われた)  心臓がまたドキンッ……って響いた。 「『俺の……』ねぇ?」  鷹の目をすうっと細める。 (あれ?その後、真川さん)  『勝手にものを与えるな』……って。 (ペット扱いしてないか?)  複雑だ〜〜 「もう一つ、面白い顔が見られました」  口許に手を当てて、クスクス笑った。 「レアですね。怒るなんて」  離した口許の手を、すっと静かに俺に伸ばした。 「ありがとう。真川さん」  指先にかみのを絡めとる手が、俺の頭を撫でている~  これじゃあ、ほんとにペット扱いだ。 「先生。人の話を聞いて下さい。優斗に勝手に触らないでください」 「君の意見、聞く義務があるのかな」 「有権者の声です」 「君の一票は要りません」 「では、御礼の言葉も返却いたします」 「大人の言葉は素直に受け取るものですよ」  この二人…… (俺を挟んで火花が見える★)  なぜ?  どうして?  こんな事になった? (うぅ。肩身が狭い)  αの威圧オーラが半端ない。  喧嘩ならよそでやってください。 「ペットはしっかり躾てくださいね」 (う)  やっぱり勧修寺先生は俺をペットだと思ってる。 「優斗はいい子だ」 (真川さん~)  それ、フォローになってません。 (29のアラサーが、いい子って……)  なんだろう。この胸に広がる哀愁は…… 「私達に挟まれて、顔が真っ赤になっている。発情が進んでいるようだ」 「大丈夫か、優斗?」  あなたが「いい子」だなんて言うから、恥ずかしくて。 (こんなになった張本人は、あなただ!)  けれど親身になって俺を心配してくれる真川さんに、本当のことは言えない。 「この分だと近いのではないか」  おもむろに勧修寺先生が取り出したのは…… (いつの間に?)  この部屋を解錠するリモコンキーが、先生の手に渡っている。  ピッピッピッ 「あっ」  また勝手にリモコンのキーボードを弾いた。 「優斗君は、これだろう」  oYo  ディスプレイに浮かんだ文字は『oYo』  ………………なんの暗号だろう。  ドキンッ  なんだ?突如、不規則に鼓動が鳴った。嫌な心音だ。  よく考えろ。  二人のα達は様々な暗号を駆使してきた。どれにも通じる共通の文字はなんだ。 (『o』)  アルファベットを挟む二つの『o』は、雄が雄たる子孫繁栄を尊ぶ創造主の袋だ。 (では間の『Y』は?)  なにかが二本飛び出している。 (触角?)  そんなものは生えていない。 (雄自身が二本)  俺は一本だ。 (何だ?)  一体なにが出ているのだ?  プシュ  リモコンがまた白い煙を吐き出した。 「優斗の……」  ぎゅっと逞しい腕が俺を包む。 「早漏は個性だ」  ハアアァァァァアアアーッ♠️♠️♠️ (『Y』って、まさか~) 「早漏は恥ずかしくない!」 「恥ずかしいィィー!!!」  つか、俺。 「ちがうからァァァァ~~★!!!」

ともだちにシェアしよう!