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Ⅹ君には渡さないpartⅢ ⑬
「さて。ここからが本番です」
声は薄い笑みを奏でて響いた。
場内の温度が上がっている。一歩、また一歩……
(Ωフェロモンのせいだ)
フェロモンに引かれて常軌を逸したαの議員達が連なり、輪を作って取り囲む。
彼らに正気を保つ余力はない。
「これは、これは。困りました……ねッ」
「はぅわッ」
飛びかかってきたαに真川さんが前に出て、俺を庇い、勧修寺先生が蹴り飛ばした。
「お偉い先輩方に、手を上げろとでも?」
「先生、もう上げてます」
「上げたのは足ですよ」
漆黒の夜をまとう瞳に笑みが浮かんだ。
「セーフです」
ガッ
右手のモップを床に突き立てた。
「どうしますか、真川さん。最早、勉強会の体 も為さない。そろそろ帰りたいんですけどね」
「どうぞ、ご自由にお帰りください」
「君、この状況で帰れますか」
会場の扉までを本能に飲み込まれたα達が塞いでいる。
例え扉まで辿り着いたとしても、唯一の出口である扉のリモコンキーが壊れてしまっている。
「真川さん、どうにかしてください」
「なぜ、俺が」
「政治ジャーナリストの君なら分かるでしょう。将来有望な若手議員をこんな所で終わらせたいのですか」
「さっきの川田議員を蹴り飛ばしたところで、あなたの政治生命は終わっています」
「カス一人蹴ったところで、私の政治生命が終わるほど柔 ではありません」
「口の悪い人だ」
「ほぅ。では君は、あの大先輩を偉大な指導者だと思っているのですね」
「屑 です」
「よくできました。その認識は正しい。褒めてあげますよ」
「それは、どうも」
「真川さんッ!先生ッ!」
両方向から同時。αが飛び込んでくる。
「おや」/「おっと」
「手が」/「足が」
「「滑った!」りました!」
ブワンッ
風圧が駈けた。
真川さんの手刀をまともに受けたαと、勧修寺先生のまわし蹴りがまともに入ったαが壁まで吹っ飛ばされた。
ブオンッ
風が凪ぎ払う。
「あぁ、すまない。足が出てしまった」
襲いかかるαが真川さんの足につまずき、よろけた隙。
「モップが滑りました。すみません」
ガシュウゥッ
モップを背中に受けたαが壁に飛ぶ。
「失礼」
「ご容赦を」
床に倒れたαを宵闇と漆黒の視線が見下ろした。
(この二人……)
最強★
「私はいつまで君達を守ればいいんでしょうか」
「守ってくださいとお願いした覚えはありませんが?」
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