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Ⅹ君には渡さないpartⅢ ⑱

 熱が……  頭の芯を侵す。  熱に侵されて、ぽうーっとする。 (しこう……できない)  おれ、さっき、なんていったんだろう……  もう思い出せないのに、胸の中があったかい。真川さんの鼓動が直接心臓に落ちてきたみたいで。  トクントクン  鳴り止まぬ鼓動が暖かくて心地良いんだ。  大きな手で後頭部を押さえられて、逃げ場がなくて、差し込まれる舌の蹂躙を甘受するしかなくて…… (気持ちいい)  いけないことなのに。  落ちてしまう。あなたの腕に。  こんなキス知らない。  こんなのキスじゃない。 「これが大人のキスだ」  キュンと鼓動を掴まれて、囁かれた低い吐息に意識が落ちる。 (俺、発情期なのに)  意識を手離したら本能に飲まれる。  性欲のままに、求めてしまう。 (あなたが欲しい)  ……って。 (そうじゃない)  誰でもいいんだ。  性欲を満たしてくれるなら、相手は誰でも。 (あなたじゃなくても)  そんな姿を見られるの、いやだ…………  震えた手。  涙が零れた。 (ごめんなさい)  Ωの情動は止められないんです。  あなたがいいのに。  あなたじゃなくてもいいと、熱が疼く。 (ただ、一番そばにいるのがあなただから……)  あなたを求めるんです…………  震えた手はあなたから離れたくて、でももう理性がきかない。  震え続けている。  心がきしんで、震えている。 「ごめんな」  熱いなにかが涙をぬぐった。 (柔らかい……)  真川さんの舌。  一瞬、理性を取り戻す。 「ありがとう。俺を信じてくれて」  震える手が温もりに包まれる。  真川さんの手だ。  理性が甦る。  背中に風圧がよぎった。  バタンッ  何かが倒れる。 (人?)   αだ。俺を襲おうとしていたαが床に倒れている。  一人じゃない。 (全員)  本能に飲まれたαが、ある者は仰向け様に、ある者はうつ伏せで受け身も取らずに、またある者は逃げようとしたのか、壁に寄り掛かるようにして倒れている。  なにが起こったの?  俺が一瞬、気を失っていた間に。  α達が全滅している。  一体、なにが? 「俺は最低だな」  抱きかかえる腕が支える力だけを残して、距離をおいた。 「君のΩ特性を利用した」

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