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Ⅹ君には渡さないpartⅢ ⑳

 救護を呼ばない方がいい……って。 (真川さんがいなければ俺、襲われていた)  権力をかさに着たα達の行いは許されるものではない。 (けれど……)  このまま、放っておいたら……  意識がないんだ。 「やっぱり」  首を横に振った。 「ダメです。このままにするのは。この人達の行いは目に余るものがあります。 真川さんがいなければ、俺はどうなっていたか分かりません。正直、恐かったです。 そう考えると、救護の義務はないのかも知れません。救護したって、この人達はこの先、なんの反省もしないかも知れません」  でも。 「眼の前で倒れている人を助けないのは、よくありません」  あきれられただろうか。今度こそ…… 「やめておけ」  声は、真川さんじゃない。  真後ろから聞こえた。 「αはプライドが高い。こんな姿を公衆の面前に晒されては生きていけない」  口許を紺のハンカチで勧修寺先生が覆っている。  先生の後ろの黒服達も同様だ。皆が一様にハンカチで口と鼻を覆っている。 (なぜ?)  違和感のある光景だ。  一歩、距離を詰めようとした黒服を勧修寺先生が制した。 「ここから先は安全圏とは言えないぞ」 (何かを警戒している?)  先生も、黒服達も。  ハンカチで押さえたまま、顔色を変えた黒服が頭を下げた。 「影響はありませんでしたか。何よりです」  ハッとして振り返る。 (真川さんも)  ハンカチで口許を押さえている。 「普通、実行前に確認すると思いますが?」 「先生でしたら特に問題はないかと」 「当然です。床で寝ている先輩方と一緒にされる方が心外です。出来が違いますので」  宵と夜のお互いの冷たい瞳は、いつも通りだ。  いつも通りでないのは、二人とも口と鼻をハンカチで覆っている。  どうしてだろう。  ………………うっ! (なんだっ、この臭い!)  強烈な異臭が鼻を突いた。顔をしかめずにはいられない。  今まで緊張していて気づかなかったけど。  この臭いは……  よく見ると、倒れているα達は皆そろって……安らかだ。苦悶の表情を浮かべている者は誰もいない。 (俺……分かってしまった)

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