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ⅩⅠ意地悪な鼓動が鳴り止まない ①
「真川さん……」
呼びかけた俺にそっと、ハンカチを手渡してくれた。
さすがは政治ジャーナリスト。予備のハンカチ、携帯してる。 エチケットも完璧だ。
差し出されたハンカチで鼻と口を押さえた。改めて嗅ぐと強烈だ。α達は皆、恍惚の表情を浮かべて、眠るように倒れている。
「この臭いは、せっ……」
「精液だ」
うぅ、やっぱり。
絶頂したまま気絶したんだ。
「命に別状は……ないんですよね」
真川さんが救護を呼ぶなと言ったのも頷ける。こんな状態で救護班を呼ばれたくないだろう。
呼ぶ俺達も……救護班の人に申し訳なくて呼べない。
「ああ。寧ろ達して夢心地だろうな」
恍惚の表情を浮かべて横たわるα達。
お偉い先生方の威厳も社会的地位も見る影ない。
うっとり気持ち良さそうな顔で眠るαは皆、上質のスーツの股間を濡らしている。
(うぅ)
暴力を使わずα達の囲みから逃れたとはいっても。
(複雑だ……)
「でも、どうしてこんな事に」
言いかけてハッとした。
(キス!)
真川さんとの口づけで意識が飛びかけて……
「俺のΩフェロモンですか」
「君が気に病む事ではない」
Ωフェロモンを暴走させた。
(それで真川さんはあんなにも申し訳なさそうな顔してたんだ)
Ωの俺を利用した……という後ろめたさがある。
「でも」
こうする事が。
「最善だったと思います」
多少は複雑だけどね。
「すまな……」
「それ、言うの禁止ですよ」
ピッと、真川さんの唇に人差し指を立てた。
……って。
俺〜〜★
(なにしてるんだ!)
こんな大胆なっ。
「そうだったな」
チュッ
(キャアァァァ〜!!)
真川さんが俺の指。
(チュッて!!)
食べたー★★★
……負けた。
真川さんの方が、よっぽど大胆だ。
「こら。Ωフェロモンがまた漏れ出したぞ」
「そん……な……」
真川さんのせいだ。
「急に……」
指、舐めるから。
「急じゃなければいいんだな。これからは、君に許可を貰ってから頂くよ」
そんなこと聞かれて、俺、なんて答えればいいんだろう。
(この人、とてつもなく意地悪だ)
耳まで熱い。
顔が真っ赤だ。
「またフェロモンが溢れてきたな。暴走させるなよ。勧修寺先生まで射精してしまうぞ」
「私は、そんな醜態をさらさない」
「わっ!」
耳元に息を吹きかけたの、勧修寺先生だ。
なんで先生まで、そんな。
「お楽しみのところ悪いが」
グイっと腕を引かれた。
「まだ、君を解放する気はない」
真川さんと引き離される。水底のような夜の瞳に魅入られる。
「彼とのキスより大事なことがあるだろう」
氷の唇がフッと上がった。
「換気だ」
そうだ。この臭い!!
「優斗、換気しよう」
……って、なんで?
真川さんまで、先生と張り合ってるんですか?
勧修寺先生に取られた方と逆。
右手が恋人繋ぎになってる★
……って。
そっちの手も握られたら俺、ハンカチで鼻を押さえられないんですけど〜
うぅ、臭いが〜〜〜
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