160 / 217

ⅩⅠ意地悪な鼓動が鳴り止まない ①

「真川さん……」  呼びかけた俺にそっと、ハンカチを手渡してくれた。  さすがは政治ジャーナリスト。予備のハンカチ、携帯してる。 エチケットも完璧だ。  差し出されたハンカチで鼻と口を押さえた。改めて嗅ぐと強烈だ。α達は皆、恍惚の表情を浮かべて、眠るように倒れている。 「この臭いは、せっ……」 「精液だ」  うぅ、やっぱり。  絶頂したまま気絶したんだ。 「命に別状は……ないんですよね」  真川さんが救護を呼ぶなと言ったのも頷ける。こんな状態で救護班を呼ばれたくないだろう。  呼ぶ俺達も……救護班の人に申し訳なくて呼べない。 「ああ。寧ろ達して夢心地だろうな」  恍惚の表情を浮かべて横たわるα達。  お偉い先生方の威厳も社会的地位も見る影ない。  うっとり気持ち良さそうな顔で眠るαは皆、上質のスーツの股間を濡らしている。 (うぅ)  暴力を使わずα達の囲みから逃れたとはいっても。 (複雑だ……) 「でも、どうしてこんな事に」  言いかけてハッとした。 (キス!)  真川さんとの口づけで意識が飛びかけて…… 「俺のΩフェロモンですか」 「君が気に病む事ではない」  Ωフェロモンを暴走させた。 (それで真川さんはあんなにも申し訳なさそうな顔してたんだ)  Ωの俺を利用した……という後ろめたさがある。 「でも」  こうする事が。 「最善だったと思います」  多少は複雑だけどね。 「すまな……」 「それ、言うの禁止ですよ」  ピッと、真川さんの唇に人差し指を立てた。  ……って。  俺〜〜★ (なにしてるんだ!)  こんな大胆なっ。 「そうだったな」  チュッ (キャアァァァ〜!!)  真川さんが俺の指。 (チュッて!!)  食べたー★★★  ……負けた。  真川さんの方が、よっぽど大胆だ。 「こら。Ωフェロモンがまた漏れ出したぞ」 「そん……な……」  真川さんのせいだ。 「急に……」  指、舐めるから。 「急じゃなければいいんだな。これからは、君に許可を貰ってから頂くよ」  そんなこと聞かれて、俺、なんて答えればいいんだろう。 (この人、とてつもなく意地悪だ)  耳まで熱い。  顔が真っ赤だ。 「またフェロモンが溢れてきたな。暴走させるなよ。勧修寺先生まで射精してしまうぞ」 「私は、そんな醜態をさらさない」 「わっ!」  耳元に息を吹きかけたの、勧修寺先生だ。  なんで先生まで、そんな。 「お楽しみのところ悪いが」  グイっと腕を引かれた。 「まだ、君を解放する気はない」  真川さんと引き離される。水底のような夜の瞳に魅入られる。 「彼とのキスより大事なことがあるだろう」  氷の唇がフッと上がった。 「換気だ」  そうだ。この臭い!! 「優斗、換気しよう」  ……って、なんで?  真川さんまで、先生と張り合ってるんですか?  勧修寺先生に取られた方と逆。  右手が恋人繋ぎになってる★  ……って。  そっちの手も握られたら俺、ハンカチで鼻を押さえられないんですけど〜  うぅ、臭いが〜〜〜

ともだちにシェアしよう!