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ⅩⅠ意地悪な鼓動が鳴り止まない②

 息苦しい……  心臓がバクンバクン音を立てている。痛いくらいに。  体が熱くて……ハァハァハァ (息ができない)  ハァハァハァ  肺が呼吸を押し出す度、意識が熱いうねりに飲まれそうになる。 「大丈夫だ、優斗」  ぎゅっと手を握られた。 「発情期の症状だ。病気じゃない」 「はい」  でも、ここまで症状が出たのは初めてだ。  薬を飲んでも、もう…… (おさまらないかも知れない) 「大丈夫だ」  その声にハッと目覚める。  熱いうねりの中で、その声だけが鮮明に届く。 「病院に行こう。俺が連れて行く」 (真川さん……)  あなたの声が不安で押し潰されそうな胸の中にすぅっと入ってきて、手を差し伸べてくれる。 「はい、がんばります」  自然と声が出た。 「俺に寄りかかれ。立っているのも辛いだろう」  声の方向に体を預けた。  刹那。  途方もない引力が、俺の腕を引いた。  抗えない力が、真川さんと俺の間を引き裂いた。 「君はこっちだ」 (勧修寺先生!)  どうして、あなたが邪魔するんだ。  俺達を罠にはめようとしていたのは、司会の男と、彼を操り裏で糸を引く政界の巨塔・諏訪会長ではなかったのか。 「さぁ、どうしてでしょう?」  まるで心を見透かした夜をまとう瞳の闇が帳を降ろす。  胸にぽつりと、深い影を落とした。 「勧修寺敬進の真意が分かりますか」  囚われた手を高く掲げる。  冷たい唇が手の甲にそっと降りた。

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