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ⅩⅠ意地悪な鼓動が鳴り止まない③
チリリ、と熱が走った。
唇が触れた手の甲がジンっと痺れる。
(歯を立てた?)
少しだけ。
「痛かったですか?」
吐息を乗せて舌が、ねっとり舐めた。
「ふうッ」
思わず悲鳴がついて出た。
ここ……
「知ってますよ」
唇がふわりと微笑んだ。
「君が怪我をした手だ」
ふうっと唇から漏れた吐息が手の甲に落ちた。息がなぞっただけで熱くなる。
「会場の前で君は転んだ。助けたのは私だ」
なぜだろう。
事実を淡々と語る先生の闇色の瞳から目を離せない。
まるで心臓の鼓動さえ奪われたみたいに。
「まだ痛みますか?」
チュッ……
音を立てて、手の甲を唇が吸った。
「痛いんだったら、言わなきなきゃいけないでしょう。治療をしなくてはいけない」
ハンカチがそっと当てられた。
ひんやり、と……
熱を持った手に添えられる。
「君に渡したのと同じハンカチだ」
色は白。
俺が借りたのは紺色。
違うのに、勧修寺先生は同じだと言った。
なぜ……
ドキンッ
心臓が脈打つ。
ハァハァハァハァ
熱がカァっと上昇した。
(このハンカチ……変だ……)
薬。
「まさか、先生が」
「辿り着きましたか。君の予想、当たってるかも知れませんよ」
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