173 / 217

ⅩⅠ意地悪な鼓動が鳴り止まない⑤

 はたり、と漂着したハンカチが真川さんの手の中に残る。  発情亢進剤。  文字通り、Ωを発情させる薬だ。  手の甲がじんじん痺れて、体に熱が巡る。熱が体の一ヶ所に滞って、より熱くする。  ハァハァハアハァ  息が苦しい。熱い。  今すぐ欲しい。硬い熱杭を体に埋めて欲しい。何度も何度も、あの場所に埋めて欲しい。穿ってまわして、こすって、奥まで穴を埋めて離さないで欲しい。 (穴が寂しい……)  ヒクヒク、ヒュクヒュク、ビュクンビュクン、揺れている。  俺の意志とは無関係に濡れていくのが分かる。雄が欲しくてたまらない。気を抜いたら、入れてもいないのに腰を振りそうだ。  肉棒……ほしい……  硬いやつで隙間なく穴を埋めて、襞をこすって欲しい。激しく、何度も。肉をぶつけて欲しい。  ハァハァハアハア  理性が壊れていく。理性を壊して雄を貪りたい。穴の奥まで、雄のいきり立った竿を埋めて腰を振りたい。 (薬のせいなのに……)  性欲が溢れ出す。 (せめてっ)  前だけでも慰めたくてソコに伸びた手を、一欠片の理性が辛うじて止めた。 「真川さっ……離れてくださ……いっ」  近くにいたら、真川さんはΩフェロモンの影響を受けてしまう。もっと離れなければ。  でももう、足に力が入らない。身動きが取れない。だから真川さんのほうから、離れて。 (見られたくない)  性欲に飲まれて、はしたない姿をさらす俺を、真川さんに……  俺、勝手にひとりで腰を揺らしている。  恥ずかしいのに、腰が止まらない。恥ずかしいから、もっと興奮している。もっと恥ずかしい格好をして、欲情のままに手と腰を動かしたくなる。 (こんな姿を見られたくない)  お願いだから、真川さん。 (俺から離れて)  すっと、影は立ちはだかった。  床にうずくまる俺を引き上げる。強引に、強く、有無を言わさぬ力で。  手首を掴んだ。 「真川さん……」  違う!  冷たい体温の、この瞳は…… (夜)  どこまで追っても深く蒼く、限りない闇の夜の瞬きが静寂に返った。 (なぜ?)  Ωフェロモンの影響を受けていない。  冷たい体温が手首から伝わる。この人には理性がある。理性があって、その腕が……  バサリ  衣擦れの音が鼓膜を揺さぶった。 「一億」  低音が耳朶を舐めた。 「この額で君を買おう」  不敵に微笑むイーグルアイ。

ともだちにシェアしよう!