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ⅩⅠ意地悪な鼓動が鳴り止まない⑤
はたり、と漂着したハンカチが真川さんの手の中に残る。
発情亢進剤。
文字通り、Ωを発情させる薬だ。
手の甲がじんじん痺れて、体に熱が巡る。熱が体の一ヶ所に滞って、より熱くする。
ハァハァハアハァ
息が苦しい。熱い。
今すぐ欲しい。硬い熱杭を体に埋めて欲しい。何度も何度も、あの場所に埋めて欲しい。穿ってまわして、こすって、奥まで穴を埋めて離さないで欲しい。
(穴が寂しい……)
ヒクヒク、ヒュクヒュク、ビュクンビュクン、揺れている。
俺の意志とは無関係に濡れていくのが分かる。雄が欲しくてたまらない。気を抜いたら、入れてもいないのに腰を振りそうだ。
肉棒……ほしい……
硬いやつで隙間なく穴を埋めて、襞をこすって欲しい。激しく、何度も。肉をぶつけて欲しい。
ハァハァハアハア
理性が壊れていく。理性を壊して雄を貪りたい。穴の奥まで、雄のいきり立った竿を埋めて腰を振りたい。
(薬のせいなのに……)
性欲が溢れ出す。
(せめてっ)
前だけでも慰めたくてソコに伸びた手を、一欠片の理性が辛うじて止めた。
「真川さっ……離れてくださ……いっ」
近くにいたら、真川さんはΩフェロモンの影響を受けてしまう。もっと離れなければ。
でももう、足に力が入らない。身動きが取れない。だから真川さんのほうから、離れて。
(見られたくない)
性欲に飲まれて、はしたない姿をさらす俺を、真川さんに……
俺、勝手にひとりで腰を揺らしている。
恥ずかしいのに、腰が止まらない。恥ずかしいから、もっと興奮している。もっと恥ずかしい格好をして、欲情のままに手と腰を動かしたくなる。
(こんな姿を見られたくない)
お願いだから、真川さん。
(俺から離れて)
すっと、影は立ちはだかった。
床にうずくまる俺を引き上げる。強引に、強く、有無を言わさぬ力で。
手首を掴んだ。
「真川さん……」
違う!
冷たい体温の、この瞳は……
(夜)
どこまで追っても深く蒼く、限りない闇の夜の瞬きが静寂に返った。
(なぜ?)
Ωフェロモンの影響を受けていない。
冷たい体温が手首から伝わる。この人には理性がある。理性があって、その腕が……
バサリ
衣擦れの音が鼓膜を揺さぶった。
「一億」
低音が耳朶を舐めた。
「この額で君を買おう」
不敵に微笑むイーグルアイ。
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