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ⅩⅠ意地悪な鼓動が鳴り止まない15
「私の婚約者です。勝手な取引はお控えください」
「しかし、落札したのは私です」
「二億、あなたの口座に振り込ませて頂きました。優斗は私が連れて帰ります」
「真川さん」
「行くぞ、優斗」
差し出された手に掴まろうとした寸前、影が俺の前に断ち立ち塞がった。
「君は渡さない」
仮面の人は、なぜ……
俺に執着するのだろう。
こんなにも切なげに……
「その言葉。そっくりそのまま、お返ししますよ。勝手な取引を控えるのは、あなたの方です。あなたが幾ら払おうとも、あなたにオークション参加権はありません」
「Ωに選択の権利がないというならば、私は優斗の代弁者です。αとして、優斗の意志をあなたに伝えます。同じ無視はできない筈です」
「詭弁だ」
「正論です」
二人の間で火花が散っている。
「取引は無効です。あなたの二億は返金します。明里君は私が連れ帰ります」
「お断りします。私はジャーナリストです。この裏オークションを公表すれば、あなたの名声に傷がつきますよ」
「真川さんッ!」
その方法はダメだ。
それは、あなたがジャーナリストの職を捨てるという選択肢だ。
「脅しますか?この私を……」
「どのようにでも、お取りください」
宵闇の瞳が、仮面の瞳を真っ直ぐ射貫いた。
「あなたの選択が、あなたの未来を決定します」
「私の選択は同時に、あなたの未来も……でしょう」
気づいている。
仮面の人は、真川さんの提案が自身の将来を天秤にかけている事に。
「だったら、どうぞ、破滅なさってください」
仮面の下の口角が薄く吊り上がった。
「ただし、お一人で」
こんな事で……
「私の未来は揺らぎません」
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